「何が響くかわからない」・・・母のチック
楽しい話題なはずなのに、目が笑っていない、「あなたのためよ」と言いながら、能面のような無表情、親切な言葉をかけられているのに、胃に不快感がある、特定の人の話題の時に、知らないうちに指先が震えている。
このように、発せられた言葉と、身体表現が一致しない場合、何らかの感覚・感情が抑圧されている可能性があります。
セラピストは、そうした言葉と身体表現のちょっとした不協和音に気づいたら、クライアントに「今、どんな気持ちですか?」、「どんなイメージが浮かんでいますか?」、「何か思い出したことはありますか?」などと、聞いてみます。これらの質問により、身体感覚と言語化されていない記憶が結びつき、感情が表出してくることがあります。
頬にチックがあった50代女性Fさんの事例をお伝えしましょう。
彼女の悩みは、高校2年の次女でした。次女は、素直で成績の良い長女と違い、中学生時代あたりからFさんの言うことを聞かず、高校1年の時には友達と旅行に行くと言って実は彼氏と旅行していたなどということがあったとのことです。Fさんは、次女に対しての不満を語っている時には、声も大きく、表情も豊かでした。そして、次女の話をした後、必ずと言ってよいほど、「長女は、問題ないのですけどね」と付け加えました。そして、その度に、頰にチックが起きていたのです。Fさんは、そのことに気がついていません。
僕は、Fさんが長女の話が出た瞬間に、自分の右手でチックが起こっている頬にそっと触れるようにお願いし、「どんな感じがしますか?」と聞きました。
Fさんは、戸惑った様子だったので、さらに「何か浮かんでくる言葉はありますか?」と尋ねると、Fさんは、不安そうな表情を浮かべ、「『何をやっているの!』という言葉が浮かびました」と言いました。
Fさんは、その後、良い子のはずの長女の様子が大学3年になったころからおかしいと感じ始めていることを話し始めました。母親の前で相変わらず素直な良い子ではあるのですが、どうもなにかおかしいとFさんは感じていたのです。夜遅く返ってくることもあるけれど、勉強はしているようでしたが、時々視点が定まらなくなり、時々わけのわからないことを言うようなことがあったのです。Fさんは、「長女は20歳を越えているので、友達とお酒でも飲んでいるのだろう」と、自分自身を納得させようとしていましたが、無意識のレベルでは、どうもおかしいと感じていたのでしょう。「なにかおかしい」と「長女は良い子だから大丈夫だ」の葛藤が、Fさんのチックとなって現れたのです。
後から分かったことなのですが、長女は彼氏に誘われたことがきっかけで、ドラッグに依存するようになっていたのです。チックというサインを見つめることにより、抑圧されていた「なにかおかしい」という不安に行き当たることができたのです。
ちなみに長女は、治療を受けドラッグから抜け出すことができ、次女は高3になった頃から真面目に勉強するようになり、無事に大学に進学していきました。
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