「流浪の月」 凪良ゆう 著 創元社文芸文庫
[ロリコンなんて病気だよな。全員死刑にしてやりゃあいいのに](p.10)
[こんな鬼畜がおしゃれなカフェのオーナー面してる日本、終わってる]
[犯罪しでかしても人生になんの傷もつかない。一般市民は税金を納める気なくす](p.310)
僕は、SNS上で使われるこの手の文言が嫌いです。
彼らは、「あなたは被害者なのだからかわいそう」、「お前は加害者なのだから生きている価値はない」などと勝手に決めつけます。しかし、多くの場合、事実と真実は全く違います。
正義の名の下、優しさを示しながら、誰かを徹底的に傷つける。そこにあるのは、上から目線からの善悪二元論であり、対話がありません。自分の発言が、実は勘違いの思い込みだったり、フェイクニュースに踊らされているだけで実は事実と違う可能性を考えもしないのです。そして、自分の発言が誰かを傷つけても、責任を取ることはありません。
正しさと優しさの仮面を被った攻撃から逃れることは難しい・・・。
そうした正しさと優しさは、子育て本や、心理学の本や、宗教関連の本に書いてあります。テレビに出てくるコメンテーターや政治学者や精神科医やカウンセラーが解説してくれています。ママ友からの情報や、会社生活の中で学ぶ世の常識は、とても参考になります。ネット検索は、お手軽な情報収集手段です。
でも、その正しさや優しさに息苦しさを感じる人たちには、安心な居場所はないのかもしれません。
安心できない日々は人を用心深くします(p,29)。彼らは、意味もわからず納得できないまま暗黙のルールに従い、常識人のふりをして生きていくしかないと感じるでしょう。
しかし、それにも限界があります。
この本の主人公更紗と文は、かつて誘拐された9歳の少女と幼児誘拐犯とされ、その事実はデジタルタトゥーとなり、いつまでも執拗に彼らを追いかけてきます。しかし、真実は別のところにありました。
せっかく見つけた安心な場所に、正しさや優しさが暴力的に土足で踏み込んでくるのなら・・・。これ以上はネタバレになるので書きません。