見出し画像

呼吸や声が思い通りに行かない理由は、学校教育で「気をつけ」を教えられたから

どうも。ボイトレをさせないボイストレーナーのヨシ・トクガワです。

もう1年以上もレッスンに通ってくれている大学生の男の子とのレッスンです。

もともと、声の使い方や腹式呼吸について興味があってレッスンに来てくださったのですが、レッスンを続けるうちに自分のカラダのことを知り、使い方を変えればさまざまなことが変わることを体験し、今ではカラダの使い方を探求するためにレッスンを継続してくれています。

今回は彼とのレッスンについて紹介します。

1.レッスンは受講生の生徒の望みから始まるもの

レッスンでは彼の望みや彼が学びたいことを学べる環境を提供できるように「今日はどんなことに興味ありますか?」というように今日やりたいことを聞いてから始めます。

一般的なレッスンというのは指導者が教えたいことを教えて、指導者がの信じていることを生徒に押しつけたりスパルタでやらせるというスタイルが一般的ですよね😅

あくまで私個人の意見ですが、レッスンの主役は学び手である生徒です。指導者側が主導権を握ってはいけません。

だからこそ生徒が今日学びたいことを学べるような環境を作るために質問からスタートしています。

もちろん「今日は特にないです」というお返事なら、最近の出来事などをヒアリングしながら、興味があることや気になることを一緒に見つけてレッスンのテーマを決めていきます。

ある日のレッスンで彼からこんなリクエストがありました。

左肩が固まっている感じがして気になります

私は「どんな時にそう感じる?」と聞くと、彼は「色んな時に感じる」ということでした。

実はこんなことも発声に関係しているのです。

なぜならカラダは声を出すための楽器ですからね。発声はカラダ全体の動きで実現されているものなのです。

彼の左腕の使い方を観察したかったので、腕を前や上に上げたり後ろにあげてみてもらいました。

2.動きを観察する

彼が腕を動かす姿を見ていて、いくつか気がつくことがありました。

まず左右で肩の位置が異なっていること(左がほんのわずかに下がっている)。

ちょっと話がそれますが、できれば「肩」という言葉は使いたくないものですね。だって、「肩」という場所は私たちのカラダには存在していないものですから。でもこの記事を読んでくださっているあなたには肩とお伝えした方がわかりやすいと思いますのであえて使っています。

さて、左右の肩の高さの違いともう一つ、左腕を動かすときに、いつもある動きが見えました。

それは左腕を前に上げるときにも、横に上げるときにも、ほんの少し肩を後ろに引く動きが含まれていたのです。

3.動きを分析する

腕を前に上げたり横に上げたりするときには、肩を後ろに引く必要はありません。でも彼の動きにはそれが含まれていました。

実は彼のように、日常的な動きの中に肩を後ろに引く動きを含んでいる人がとても多いんですね。腕を上げたりする時はもちろん。声を出したり話し始める前に肩を後ろに引く人がいます。胸を張るという動きも実は同じことが起きています

ある時、なぜこんな風に肩を後ろに引いたり胸を張ったりする人が多いのかなと分析してみたのですが、私も思い当たることがありました。

そういえば、小学校や中学校で先生からそんなカラダの使い方を教わっていました。「気をつけ」です。

実は、これが原因で呼吸や発声を知らず知らずのうちに邪魔してしまっている人が多いのです。

なぜなら、肩を後ろに引くことで胸回りの筋肉を後ろに引っ張ることになります。すると肋骨の動きが制限されて、呼吸活動のために肋骨が十分に広がることができないのです。

ただし、この肩を後ろに引く動きは間違った動きやダメな動きではありません。不正解や誤りでもありません。なぜなら、彼や彼と同じように肩を後ろに引く動きをしている他の人はこれまでに誰かに教わったことがあって、教わったとおりにやっているからです。

とはいえ、その動きが原因で呼吸や発声のパフォーマンスを低下させているので、できればそんな動きは取り除いた方が望ましいですよね。

4.新しい動きを体験する

彼にとって習慣になっている動きを取り除くためには、別の動きで上書きする必要があります。そのためには欠かせないステップがあります。それは「体験」です。私たち人間は体験なくして本当の学びは得られません。アタマで理解するだけでは足りないのです。

例えば、肩を後ろに引くことで呼吸や発声を邪魔することを知ったので肩を後ろに引く動きをしないようにと思ったとしても、その動きはすでに習慣に組み込まれているので上手く行かないのです。肩を後ろに引かないように思っても肩を後ろに引いてしまうんです。

不要な動きを取り除くためには、今までと違うカラダの使い方があるということを体験する必要があります。体験を通じて「こんなこともできるんだ」「今までと違う感覚だ」という事実をカラダが理解しなくては、いつまで経っても習慣通りのことをしてしまうものなのです。

この日は、腕や鎖骨、肩胛骨の構造や動きについて彼と一緒に解剖学の本を見ながら鎖骨や肩胛骨がどんな動きができるかについて可動域を確かめながら理解を深めていきました。彼にとって普段は全くやったことがない、新しいカラダの使い方をしてもらいました。

腕を動かすための新しいのアイディアを得て、それを活用しながら腕を動かした彼のカラダには、肩を後ろに引く動きはもうありませんでした。

5.使い方が変われば機能が変わる

彼の腕の動きが新しいものになり使い方が変化した後、彼はあることに気がつきました。

「呼吸がたくさん入ってくるようになりました。ラクに感じます。」

私たちのカラダには大切な原理が存在しています。

カラダの使い方が機能に影響を与えるのです。

機能とは私たち人間ができるさまざまな活動のこと。

例えば、呼吸や発声、可動域や運動性、その質や負荷、そして思考や気分、集中力やストレスにも影響を与えるのです。

言い換えれば、カラダに何らかの違和感や痛みを感じているなら、カラダの使い方が原因なのです。

私がレッスンで生徒の皆さんにお伝えしているオリジナルメソッド【発声練習をしないボイトレ】はこの原理をベースに、カラダの使い方を変えることで呼吸や発声機能を改善したり、邪魔を取り除くことで本来の性能を発揮できるようにすることを目的としています。

そのため変わるのは声だけではありません。継続してレッスンに通ってくださっている方の中には「声を出しやすくなっただけでなく、腰痛もなくなりました」というようにカラダの変化を体験している方も多いです。そうやって体験をすることで新しい使い方をすることの重要性を理解してくださった方は、毎日の生活の中で自分のカラダの使い方を探求しながら過ごしておられます。

そうすると日々新しい気づきや発見を得られるので、本人が知覚していないくらい小さな変化が起きています。その変化が積み重なって、ある時に気がつきます。「今までの自分とここが違う」「前よりもカラダがラク」「そんなに力を入れなくても大きな声が出る」といった知覚できるレベルでの大きな変化に気がつくのです。

その変化を手に入れたい方、そう遠くない将来に何らかの形で今の自分よりも少しでも上のステージに行きたい方はぜひ新しいカラダの使い方を体験してみてください。

そのためには、私たちのカラダの機能を邪魔する「気をつけ」を取り除くところから始めることをおすすめします。

お読みいただきありがとうございました。

ボイトレをさせないボイストレーナー/アレクサンダー・テクニーク指導者
ヨシ・トクガワ
https://koenotorisetsu.com/


いいなと思ったら応援しよう!