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【ショートショート】ひみつのアナゴさん

年末に実家へ帰省した際に、親父があるテレビ番組を観ていた。

 

 

「穴子埋蔵金大捜査線」

 

 

番組の冒頭でナレーターが概要を話していた。

江戸時代、穴子金満という者が外国との密輸貿易によって江戸幕府をしのぐほどの巨万の富を得ていたのだが、その後幕府にみつかったため、全ての財産をどこかに隠した後、行方不明になったという歴史ミステリーで、その「穴子埋蔵金」を発掘しようという一大プロジェクトのようだ。

 

 

気持ちが冷めているオレは、親父に向かって、

 

 

「こんなの見つかるわけないじゃん。中途半端になにかが見つかって「大発見!」とかでごまかして視聴者をあざ笑う番組なんだし、そんな真剣な顔で観るなよ。」

 

 

ちょっと親父のことを軽蔑した物言いをしてしまったと半分後悔したのもつかの間、親父がこちらに振り向かずに話してきた。

 

 

「おい、お前。今の仕事辞めろ!」

 

 

今年4月から大手のコンサルティング会社に就職したばかりだ。

 

 

「は?なに言ってんの?辞められるわけないだろ!」

 

 

「これは大変なことになったぞ!!」

 

 

オレの反論を無視して親父が騒ぎ出したので、台所にいたおふくろも居間にやってきた。

おふくろもテレビ番組を観るなり、みるみる顔が青ざめてきた。

 

ちょうど親父が日本酒を飲みながら話しかけてきたので、酔っ払っているだけだろうと思っていたのだが、おふくろの様子を見てこれはおかしいと思った。

 

 

「いいか、ちょっとお前に話したいことがある。」

 

 

急に真顔になった親父が酒臭い口のまま話し出した。

 

 

「よく聞けよ!あと絶対に他人に言うんじゃないぞ!この穴子埋蔵金だが・・・この家の地下に眠っている!」

 

 

 

・・・・はい!?

 

 

 

オレが唖然としているのも気にせず話を続ける親父。

 

 

「このテレビ番組の一大プロジェクトを取り仕切っているのが、穴子金満の異母兄弟だった葉茂銀蔵の子孫だ。おのれ、穴子一族の風上にも置けぬ!」

 

そういうなり、気持ちが高ぶったのか、手にしていた猪口をテレビに向かって投げつけ、テレビの液晶画面が粉々に割れてしまった。

 

 

「あの子孫は間違いなくここに隠し財産があることを突き止めているはずだ。いいか、お前。穴子の財産を命に代えても守るんだぞ!」

 


オレはさっきからアホな顔つきで親父を見つめていた。この状況にオレの脳はまったく追いついていなかった。

 

そこで見かねたおふくろが横やりを入れてきた。

 

 

「お父さんの言うとおりなんだよ。あんたも穴子一族の子孫なんだから。ほら、ボケッとしていないで準備するよ!」

 

 

いまだに状況がつかめていない中、オレは両親の言いなりで臨戦態勢とやらに入ってしまった。

 

 

 

翌朝、なぜかオレは家の地下室に閉じこもっていた。

 

居間に掛けてある掛け軸の裏に秘密の扉があるというありきたりな仕掛けの扉を開けると秘密の地下室への階段があり、オレは両親とともに降りた。

 

地下室にはたくさんのモニターや押しボタンがあり、部屋の奥には分厚い鉄の扉があった。

 

 

「この扉の奥に穴子一族の財産が眠っているのだが、実は俺はこの扉の開け方を知らず、末代まで絶対に守れと口伝されてきたのだ。」

 

 

親父が話していたとき、急に警報音が鳴り響いた。

 

 

 

「もう来たのか!?動きが速いな!」

 

 

 

親父は厳しい顔になった。

 

 

「仕方ない、先手必勝だ。お前、そこのくまのプーさんのボタンを押せ!」

 

 

親父に促され、オレはとっさにそのボタンを押した。

すると、

 

 

ズガガーン!!!

 

 

 

ものすごい音と地響きが伝わってきた。

 

目の前にあるモニターには、オレの家の周辺に仕掛けてあったのか、無数の爆弾が起爆し、家から半径50メートルほどが一瞬で焼け野原となった映像が映し出されていた。


 

「お・・・親父!な、なんなんだよ、これ!」

 

 

オレはあまりにも凄惨な光景を目にして叫んだが、相変わらず親父が無視して、

 

 

「センサーの感度が良すぎて、なにかに反応してしまったか!クソッ!」

 

 

オレは親父に非難のまなざしを向けた後、再度モニターを見た。
二軒隣に住んでいて今でも淡い恋心を抱いていた幼なじみの家も跡形もなく無くなっていた。

 

 

絶望感にさいなまれているオレのことなど気にもせず、親父が語り始めた。

 

「今だから言っておくが、『サザエさん』に出てくるアナゴさんいるだろ?あれは俺たち穴子一族の末裔だ。」



 

 

んなこたぁぁぁぁない!!




 

 

「それにしても万策尽きた・・・相手の方が一枚も二枚も上だった。俺たち家族はこの財産と運命を共にしよう・・・。」


親父はそう言いながらがっくりとうなだれた。
おふくろはオロオロと泣き始めた。


「お、おい。う、運命を共にするってどういうことだよ?まさかみんなでここで死のうってこと!?」


オレは震えながらそう聞いたが、親父はそれには答えず、地下室内にあった金庫からある装置を取り出した。


「これが自爆装置だ。これを押せばここにある財宝もろとも全て吹っ飛ぶ。この財宝は誰にも渡してはならないのだ。お前が押せ!」


「う、嘘だろ?オレ、死ななきゃいけないの!?」


「穴子一族の掟だ。あの世で会おう!さらばじゃ!」


おふくろは聞いたこともないお経のようなものを唱え始めている。



ホントにこれでいいのか?
まだ死にたくないんだけど。まだやりたいこと沢山あるし、彼女だって一度もできたことないし。



死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない・・・。




「いい加減に観念しろ!お前が押せないなら俺が押す!」


親父がしびれを切らせてドクロマークが描かれた自爆装置を押そうとした。


「ちょ、ちょっと待ってく・・・」




「ポチっとな!!」









オレたち家族は警察署に出頭した。


結局、自爆装置なるものを押したが起爆せず何も起きなかった。
親父は死にきれなかったことに悔しがったが、近くの警察署へ出頭して刑に服そうということになった。


最寄りの警察署まで家族でトボトボと歩いていく。


呆然としたまま歩いていたオレは、ふとあることに気づいた。






たしかあの番組・・・生放送じゃなかったよな?



(2,473文字)


今回のショートショートは以下のマガジンに収めています😌


次回の「よしまるショートショート劇場」は、1月18日(土)よる9:00に投稿します✨️






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