お金に困らない生き方とは? 現実を知ってからが人生の本番
貯金してますか? わかっちゃいるけど貯められない。そんな芳麗さんは“仕事を楽しむ、暮らしを楽しむ”がキャッチコピーの『日経ウーマン』を見てうなだれます。安定した稼ぎも望めない、結婚すらも頼れない。そんな厳しい現実を生き抜くのに、もっとも確かな安全網である“お金”と女の生きる道について。
20年以上も数多くの雑誌で女性の生き方を探求し続けてきた、コラムニスト 芳麗さんが贈る“ありふれた女”たちのための教科書です。
65歳までに最低3000万円は貯めないと?
「理想の老後を過ごすには、65歳までに最低3000万円は貯めておかないとダメなの。つまり、30代のうちに1500万円は貯金していないとね」
日本経済を支える丸の内系ストイックなOLのW(ウーマン)は、真剣な表情で私を諭す。
こちらは40過ぎても貯金が7桁に届くかどうか。不安定な自営業とはいえ、Wの収入と大差があるわけではない。贅沢はしないけれど、時々、旅へ行き、引越しを繰り返し、日々、本を買ってカフェでお茶しながら原稿を書いているだけでも、泡のようにお金は消えて行く。
一方、Wはどこまでも合理的で堅実なリアリストだ。
ZARAの流行色のワンピにユニクロのカーデ、セリーヌのヴィンテージバッグという堅実なオシャレOLのお手本のようなコーディネート。スタバでは、無脂肪ミルクのラテに無料のキャラメルソースをトッピングするのがお決まりだ。
「豆乳はプラス50円だから、健康面も考えて無脂肪をチョイス。長時間滞在するなら、2杯頼むより、温度は熱めにしてグランデサイズにするとコスパがいいの。あ、でもここだけの話、女友だちとのお茶は2時間までって決めている。それ以上だと、話が堂々巡りになって、時間も労力もムダになるだけだもの」
わたしは、うんうんと頷きながら、「わかっちゃいるけど、なんだか味気ないような……」とぼやく。すると彼女はピシャリと言った。
「目先の感情や欲望に捕らわれているから貯まらないんじゃない? 常に目的意識をもって、リスク管理しないと。お金は最大のセーフティーネットだよ。それに……、お金こそがあなたの“現実”を決めるの」
賢さと楽しさを叶える“勝間&松居のWカズヨ的な女の道”とは?
勝間&松居のWカズヨ的な女道『日経ウーマン』は、働いて自立している女性のためのライフスタイル誌だ。
キャッチコピーは“仕事を楽しむ、暮らしを楽しむ”。「キャリアからマネー、ヘルスケア、ファッション&ビューティまで。いずれも手を抜かず、しっかり情報収集して、賢く暮す」のがモットーだと記してある。
そこらのオシャレ女性誌と一線を画すのは、すこぶる現実的なところ。頻繁にメインをはるお金のテーマのほか、「人生が輝く! スッキリ片づけ術」「仕事も暮らしも時短でいこう!」「最高の1年を手に入れる! 1日5分! 朝と夜の習慣術」など、ストレートに自己啓発的な企画が中心で、どの記事も徹底的な読者アンケートにもとづいて作られているのがまた興味深い。
たとえば、「1000万円 貯まる本(ふるさと納税&国からもらえるお金 最新ガイド付き!)」(2016年2月号)には、“貯蓄1000万円女子のタメ技公開”として、年収370万円、43歳、シングルの読者が「41歳から株式投資して2年間で資産を2000万円に肥やした」なんて大技から、「週5~6日ホットヨガに通って5kgの減量に成功。スタジオでシャワーをすませるから、家のお風呂に入らずガス代も節約」なんて小技まで紹介。そのリアリティと努力に小さな嘆息をついてしまう。
お金とキャリアと健康と……リスク管理して、効率主義を貫き、自己を啓発しながら、実のある成功をつかむべく突き進む。
表紙を飾るのは人気女優たちだけれど、そのマインドや目指す生き方の頂点にいるのは、おそらく、勝間和代と松居一代のWカズヨだ。
前者は近頃は経済や仕事のみならず、ダイエットや味噌汁作りまで人生全般をロジカルに指南する経済評論家で、後者はお掃除と節約のカリスマであり、株と投資でも年に億を稼いでいる。
――そんな日経ウーマンは2014年6月号「お金に困らない生き方」特集にて、不安定な時代でも、生涯、困らずに生きるためには、「自分で自分を守るセーフティーネットを持つことが大切」だと提案している。
“人間関係”や“継続できる仕事”もセーフティーネットではあるが、女性がほどほどに働いて、普通に自立するのも難しいと言われる時代。男性だって大差ないから、“結婚”も確実な安全網ではない。
すると、最たるセーフティーネットとは、やはり“お金”。ただし、これからは「お金をかけずに幸せに暮らす」こともキーワードだという。安定した稼ぎが望めない時代なら、稼ぐことに執心するよりも、使い方を工夫せよ。要は、昨年、大ヒットした書籍「フランス人は10着しか服をもたない」のように、オシャレに楽しみつつも節約する精神を持てということ。
さらには、老後の生活や親の介護などの、不安にしっかりと向き合うこと。その上で、自分の生涯収入と老後に必要な経費を算出、しっかりと収支計算するなど、やはり、現実を注視せよと勧める。正直、誌面のチェックシートを使った収支やリスクの計算はかなり細かくて、とてつもなく面倒くさい。
“ダイエット”と“貯金ができない”の迷路を抜け出すには?
そもそも私は、ダイエットと貯金が苦手である。体重計にのるのと同じくらい、収支や貯蓄をチェックするのがおっくうだ。 何歳になっても楽しいことが大好きで成長欲求はあるものの、目の前の豆大福一個に鼻歌が出てくるほど、幸せのハードルも低い。だから、お金が少ない時も何とかやっていけるし、この先もなんとかなると思っていたし、今も、半分くらいはそう思っている。
そんな自他ともに認める無計画で楽観的な人間だが、それでもというかだからというか、常に漠然とした不安は強くある。つまり、その現実から逃避している日々だったのだ。
それでも、40を過ぎて。初めてお金について真剣に考えた。理由はシンプルに体調を崩したからだ。大病したわけではないけれど、一時、些細なことが重なって心身のバランスを崩し、体力がダウン。徹夜なんて当然できないし、思うように仕事がはかどらない日もあった。
頭でイメージする速度やフォームでは走れなくなった感覚。それを味わって初めて、命にも、稼げるお金にも限りがあるのだという当たり前の事実を実感しだ。だいぶ遅ればせながら、お金は絶対に必要だと思った。
今ある貯金も体の状態も現実を見ようとしない、この逃避癖こそが問題で、だから、自分は容易に心身のバランスを崩したりするのではないかと気付いたのだ。
そこでとうとう観念して、日経ウーマンの勧める通り、自分の貯金、今後の生涯収入と老後に必要な経費などを算出して、せっせと収支計算をしてみた。
面倒だ、とても面倒……だけど、実際に行ってみると案外、おもしろい。生々しい現実が浮き彫りになると、次第に、視界が開けてくる。今やるべきこと、自分がやらざるをえないこともわかってきたのだ。
漫画家の西原理恵子さんは、著書「この世でいちばん大事な『カネ』の話」の中で語っている。いわく、「自分のやりたいことがわからない」と悩む若者も、自分はその仕事で、いくら稼げるのか、いくら稼ぎたいのか。“報酬”と“やりがい”と“ガマン”のバランスを考えて、自分なりの落とし所を探してみると、おのずと、やるべきことが決まる。たしかに、その通りだ。
稼ぐ力や使い道もふくめて、お金は、その人となりを表すし、現実を動かしていく。
現実を知ってから、人生の本番が始まる
「現実って、逆さにすると実現になるのよ。現実をよく知ってからが、人生の本番なのよ」
Wの言葉は正しい重さで私に響く。
現実的になるということは、時間も体力も外見も命もすべては限りあるものだと知ることだ。でも、限りを知るからこそ、目の前にある仕事も、稼ぐことも、「実現」に向けて本気で取り組めるようになる。
だから、Wのように、お金について真剣になること、現実的になることは、決してあさましいことじゃないし、ましてや夢を諦めることじゃない。
私も、今年から家計簿つけよう。500円玉貯金もしよう。松居一代の「開運お財布布団」も買っちゃおうかな。どれも些細なことかもしれないが、お金に意識して触れて使って、きちんと向き合ってみたいのだ。
そう告げると、Wは「3日坊主にならないでね」とつぶやきながら、冷めたラテを飲みほしてさっそうと立ち上がった。
「ちょうど2時間だから、もう行くね」