鑑賞レビュー:永青文庫 秘蔵!重要文化財 「長谷雄草紙」全巻公開
11月25日に、永青文庫主催の「秘蔵!重要文化財「長谷雄草紙」全巻公開ー永青文庫の絵巻コレクション」を鑑賞したのち関連講演会、”絵巻入門ー長谷雄草紙をたのしく鑑賞!」を聴講した。
この展覧会、長谷雄草紙の14年ぶりの公開でもあり、鑑賞の機会としても大変貴重なので作品自体ももじっくり鑑賞した。(12月3日終了)
じつは、2022年に東京都美術館で開催された「ボストン美術館展 芸術×力」に出品されていた絵巻物「三条焼討巻」をみてから絵巻物にハマり、見られる機会があるごとに見ているが、たいていは展示室の都合で長い絵巻物の一部が開いてあったり、何巻もある絵巻物の持ち主が異なっている場合もありすべてが見られるわけではない。
しかし、この永青文庫の展覧会では永青文庫が「長谷雄草紙」を全巻所蔵されており、そして展示室で全長約10メートルに及ぶ絵巻物がすべて開いた状態でみられる展覧会だった。
絵巻物は「本」である。したがって机の上で手で開きながら見る絵画作品なので起き型の展示台がなければ展示ができない。10メートルの長さの展示台はどこにでもあるものではないという。
また、絵巻物では詞書(ことばがき:文章が書いてある部分)と作り絵(イラスト)では作者がことなるということだ。ゆえに、出来上がった段階で紙をつなぎ合わせることにより細長い作品を作り、それを一巻の巻物とするという事らしい。しかし、なかには詞書と絵が重なり合う部分があり、染筆者(文章を書く人)と画工が近しい関係だったことが推測されることもあるという。
この展覧会では長い巻物がすべて開いてあるので、詞書と作り絵の部分の紙の継ぎ目も併せて原本どうりみることができた。
また、永青文庫は刀剣の所蔵で有名な美術館であるためか、刀剣以外の展覧会ではひどく混雑していたことはない。手書きの書物である絵巻物は遠くからでは細部が見えないうえ、じっくり見られる鑑賞環境も適していてありがたい。
◆長谷雄草紙とは…
鎌倉~南北朝時代に作られた絵巻物であり、徳川将軍家の所蔵品であったものが幕末の混乱で散逸し、長くに渡り行方不明になっていたものを昭和の初めに永青文庫の設立者、細川護立氏の所蔵になったものだということだ。現在は重要文化財に指定されているという。
縦29.7㎝長さ1006.7㎝。
キャプションのみだとなんだか重々しい作品のように思うかもしれないが、内容は大変コミカルなもので、ストーリーも絵も面白い。
鎌倉時代の絵本ということなのだろう。
物語の概要は、紀長谷雄という平安時代の文化人と人間に変装した鬼とのやりとりが中心となっている怪異譚だ。
ある日、長谷雄のところに見知らぬ男がやってくる。男はじつは人間に変装した鬼だ。鬼は、長谷雄をギャンブルに誘い、勝ったら「女」を進呈するという。
長谷雄は賭けに勝ち、鬼は女を連れてくるが、その女には100日間は触れてはいけないと言い立ち去る。
しかし、長谷雄は70日目に欲望が抑えきれずに女に触れてしまう。すると女は水になって流れて行ってしまう。
後日、鬼が長谷雄に約束を破ったことを責めにやってくる。女は、じつは死体の「いいところだけ」を集めてつなぎ合わせて作った人間で、長谷雄が約束を守ると本物の人間になれるということだった。
鬼は怒って抗議するが長谷雄が北野天神一心にに念じ、最後に鬼は天神の力に降参して退散していくというすじがきだ。
鬼は日本ではあいかわらず人気のキャラクターだし、ホムンクルス(死体を継ぎ合わせた女)が登場してくることにも驚いた。アニメ映画にしても面白そうな内容ではないだろうか(笑)
つくり絵のほうも構図の工夫も見事で美しく、所々に描いてある町の様子や人物のしぐさや表情が豊かで魅力的だ。端麗な色彩も色あせず残っており、保存のよさも手伝って、つくられてから600年もたっているとは思えない瑞々しい表現は見ごたえがある。
講演会を担当されたサントリー美術館の主任学芸員である上野氏の講義も大変中身の濃いものであり、絵巻物についての基礎知識や鑑賞方法などを解説していただいたために同時に展示されていた北野天神縁起絵巻や信貴山縁起絵巻についても深く愉しむことができた。
展覧会も講演会も大変愉快で充実したものであった。
※カバー画像は長谷雄が鬼とすごろく勝負をしているシーン。どんな会話を交わしながらゲームに興じているのでしょうね(笑)
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