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 今回の記事では、IBDP日本語A(文学)の科目における「評価」についてまとめておきます。学習を始める時に、どのような評価方法があるのかを確認しておくことはとても重要です。「どんな試験があって、どんな準備をすべきなのか」を明確にすることによって、日々の学習の質が大きく異なってきます。IBで学習をしている方、それを支えている保護者の方の助けになればと思います。


「形成的評価」と「総括的評価」

「形成的評価」(formative assessment)

 直接的に成績に関係するものではないけれど、生徒の学習プロセスの一部として学習ニーズを特定するもの。用語を確認するための小テストや、簡単なレポートなどがそれにあたるようです。

「総括的評価」(summative assessment)

 これまでの学習を踏まえて、学習者の到達度を測ります。これが成績に影響するものです。実験のレポートや、ある一定のまとまりのある課題として与えられます。IBDPの学習では、こちらに重点を置いています。

「評価」に対する姿勢

◯「絶対評価」による評価
 評価をするにあたって、他の生徒の成果物と比較することはありません。特定のレベルと照らし合わせてパフォーマンスを判断します。

◯外部評価と内部評価
 「外部評価」:IBの試験官が採点します。
 「内部評価」:教師が採点し、IB によるモデレーションを受けます。

評価要素【外部評価】

①試験問題1:設問つき文学分析

 こちらは初見の文学作品を分析する試験です。文学形式(詩、戯曲、フィクション、ノンフィクション)の異なる2つの課題文が掲載されています。設問による技術的または形式的観点、あるいは生徒自身が選んだ観点に焦点を当てながら文章の分析を行います。
SLであれば1つを選択しますが、HLであれば2つの分析を行います。

②試験問題2:比較小論文

 この試験問題は、4つの一般的な質問で構成されます。このうちの1問について、コースで学習した2つの作品に基づいて比較小論文を書きます。つまり、これまで読んできた作品に基づいて、試験問題を解く必要があるため、しっかりと作品を読み込んでおく必要があります。
 SLとHL、「日本語A:言語と文学」とも共通した試験問題です。

③HL小論文(HLのみ)

 コースで学習した1つの文学テクストまたは作品について小論文を書きます。小論文は、1200語から1500語(日本語の場合は2400字から3000字)です。焦点を絞った分析的主張をし、広く文学的観点から作品を探究します。
引用や文献参照を行うなど学術的小論文の正式な枠組みに従うことが求められます(学問的誠実性)。

評価要素【内部評価】

個人口述

 自分で選んだグローバルな問題が、学習した2つの作品の内容と形式を通してどのように表現されているか分析します。「学習言語で原書が書かれた1つの作品からの抜粋」および「1つの翻訳作品からの抜粋」を元に、生徒はあらかじめ用意した回答を10分間で発表し、その後5分間、教師から次のテーマに基づいた質問をされます。
※ SSST履修生のみ外部評価として15分間の発表を行います。そのため、教師による質問はありません。

※「試験問題1」「試験問題2」「HL小論文」「個人口述」試験の詳細については別の記事でそれぞれまとめております。ご覧になりたい方はそちらをご参照ください。

試験時間と配点比率

◯SL(standard level)

【試験問題1】
 試験時間:1時間15分、配点比率:35%

【試験問題2】
 試験時間:1時間45分、配点比率:35%

【個人口述】
 試験時間:15分(10分間発表、5分教師からの質問)、配点比率30%
 →SSSTは15分発表(教師からの質問はなし)

◯HL(higher level)

【試験問題1】
 試験時間:2時間15分、配点比率:35%

【試験問題2】
 試験時間:1時間45分、配点比率:25%

【HL小論文】
 配点比率:20%

【個人口述】
 試験時間:15分(10分間発表、5分教師からの質問)
 配点比率:20%

評価基準を理解するために必要と考えられること

 最終試験の評価項目を確認することで、日頃どのような学習を進めていくべきかを明確にすることができます。以下の観点を頭に入れておくことで、作品を読み進め方やポートフォリオへのまとめ方が変わってくると思います。これらの項目を段階に分けて評価されます。

「知識」「理解」「解釈」
・多様なテクスト、作品、およびパフォーマンス、それらの意味と含意
・テクストが書かれた文脈と受けとられる文脈
・文学的、文体的、修辞的、視覚的、そしてパフォーマンス技術的な要素
テクストタイプと文学形式の特徴

「分析」「評価」
・言語の使い方がどう意味を生成するか
・文学的、文体的、修辞的、視覚的、または演劇技術の使用法と効果
・さまざまなテクスト間の関係性
・人間が抱える問題に対して、テクストがどのような見解をもたらして いるか

「コミュニケーション」
・明確で論理的、説得力のある方法で考えを表現する
・さまざまなスタイルや言語使用域(レジスター)を用い、多様な目的と状況に応じて表現する
・考え、感情、人物、雰囲気をパフォーマンスを通じて表現する (「文学とパフォーマンス」のみ)

「国際バカロレア(IB)ディプロマプログラム(DP)科目概要「言語 A:文学」2021年第1回試験」
「Ⅲ.評価のモデル」より

用語の確認

・分析しなさい
 本質的な要素または構造を明らかにするために分解しなさい。

・コメントしなさい
 与えられた記述または計算結果に基づき、見解を述べなさい。

・比較しなさい
 2つ(またはそれ以上)の事柄または状況の類似点について、常に双方(またはすべて)について言及しながら、説明しなさい。

・比較・対比しなさい
 2つ(またはそれ以上)の事柄または状況の類似点および相違点について、常に双方(またはすべて)に ついて言及しながら、説明しなさい。

・対比しなさい
 2つ(またはそれ以上)の事柄または状況の相違点について、常に双方(またはすべて)について言及しながら、説明しなさい。

・詳しく述べなさい:詳細に述べなさい。

・論じなさい
 さまざまな議論、要因、仮説を考慮し、バランスよく批評しなさい。意見または結論は、適切なエビデンスを挙げて、はっきりと述べなさい。

・評価しなさい:長所と短所を比較し、価値を定めなさい。

・考察しなさい
 論点の前提や相互関係が明らかになるように、主張または概念について考えなさい。

・説明しなさい:理由や要因などを詳しく述べなさい。

・探究しなさい
 何かを発見するための系統立ったプロセスに取り組みなさい。

・解釈しなさい
 知識と理解を用いて、与えられた情報から傾向をつかんで結論を導き出しなさい。

・調べなさい
 観察、調査、または詳細かつ体系的な検証を行い、事実を立証し新たな結論を導き出しなさい。

・正当化しなさい
 答えや結論を裏づける妥当な理由やエビデンスを述べなさい。

・発表しなさい
 展示、観察、考察または熟慮のために提供しなさい。

・どの程度
 主張または概念の長所または短所を検討しなさい。意見および結論ははっきりと提示し、適切なエビデンスおよび論理的に正しい論拠をもたせなさい。

 以上、「日本語A:文学」の試験の概要と試験に関わる用語を集めてみました。
 試験のためだけの勉強になってしまうと、せっかくの探究や概念の学習のスキルを身につけることができなくなってしまうかもしれません。かといって、どのように評価されるのかについて理解していないと学習方法も定まらないまま、結果が思ったようにふるわないこともあると思います。
 どのように評価されるのかを明確にした上で、「日本語A:文学」の学習を有意義にしていただければ幸いです。

<参考資料>
・IBO「国際バカロレア(IB)ディプロマプログラム(DP)科目概要」(2022.09.15閲覧)
・渡瀬恵一「IBにおける学習評価について」(2022.09.15閲覧)
・IBO「DP:原則から実践へ」(2022.09.15閲覧)

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