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子どもの日本語学習が「やらなければならないもの」から「やりたいもの」になるまで - ある生徒の成長記録②【Aflevering.202】

 前回の記事では、私が日本語を担当している生徒の成長について紹介をさせていただきました。

そして、今回はそのAさんを成長させたものについて分析していきたいと思います。

Aさんを成長させたもの

1年間積み重ねてきた日本語学習

 Aさんは現在、音読の読み間違いが減り、単語を単語の塊として認識し、意味が分かっているように感じられる音読ができるようになりました。自ら日本語の本を読むようになり、保護者にも読んでほしいというようになったそうです。テストの点数や成績などではなく、その子自身が「努力を積み重ねてきた」という意識が大切だということが分かりました。

「算数」の成長が日本語学習を支えた

 海外での日本語学習は「国語」に限った話ではありません。大切なのは、その子自身が持っている日本語の世界を広げてあげることです。Aさんは算数が比較的得意だったので、私はそのスキルに注目しました。しかし、日本の教科書で学ぶ算数は、相応の日本語力がないと問題の意味が理解できず算数とは関係のないところで問題が起きてしまいます。
そのため、算数の時間はそれぞれの単元で求められる「概念理解」を重視しました。日本語の文章を理解する能力は無視し、私が説明を加えながら問題を一緒に解いていきました。どちらも求めてしまうと子どもにとっては苦痛でしかありません。いろんな力を一気に引き上げるのは大変なので、その時に伸ばしたいスキルを1つ決めてアプローチすることにしています。

 すると、元々算数が得意なAさんは凄まじい成長を見せました。Aさん自身が算数が好きということもあり、およそ1年4ヶ月の間に2年生の内容から6年生の内容までを修了することができたのです。もちろん全ての単元を念入りに扱ったわけではなく、日常生活で必要な知識や今後Aさんが通う学校で必要だと思った内容を中心に行いましたが、それでもほとんどの単元の内容を理解し、問題を解くことができたのです。
 とはいっても、Aさんの中には「2年生から6年生までの教科書が終わった」という目に見えるような成果ではなく、「日本の算数でたいていのことを聞かれても理解できる」という気持ちの変化が生まれたんだと思います。そして、「算数」という名前から「数学」という名前に変わったのもどうやら嬉しかったようです。今は嫌がることなく問題文を自ら読み、難しい問題にも積極的にチャレンジしてくれています。新しいことを学びたいという気持ちが溢れています。

進路選択

 オランダ現地の学校では、小学校を卒業する時に進路が大きく分かれます。そのため、自分はこれからどういう道に進みたいのかを決めておかなければなりません。ただ、自分の希望通りにならないこともあり、オランダの共通テストなどを参考に進路選択が行われます。「小学生卒業段階ではまだ早いのではないか」という声がオランダ国内でもあるみたいですが、現在この制度は維持されたままです。
 Aさんにとって、これから自分がどういう方向で学びたいのかを考えるきっかけになったことも成長を促した要因であると考えられます。

 ちょうど精神的にも大きな成長を迎える時期に、日本語を嫌いだという認識を少しでも払拭できたのはよかったです。これまでは日本語に自信のなかったAさんも、学習を続けて「自分も日本語ができる」という気持ちを少しは持っていくれていると思います。これからも自分の世界を広げていろんなものを見て感じて考えていってもらいたいと思います。

 それでは次回は、Aさんの成長を見守り私が大切だと思ったことについてまとめさせていただきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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