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『学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』第3章教室のドアを開ける【287】


 ここまで『学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』を読んで大切だと思ったことをまとめています。第1章では、産業化時代に生まれた学校制度と現代社会で求められる学校教育について比較し、第2章では学校を生きたシステムとして機能させるために必要な5つの規則について確認してきました。


「学習する教室」を創る

 教員はただ授業をするだけでなく、学習環境のデザイナーとしての役割を担います。新しい学年の1ヶ月は、共同体づくりをベースにした学習を徹底したり、お互いにオープンになり、リスクに挑戦できるようになると、クラスメイトが学びに不可欠な仲間であるという認識を持つことができると考えられています。

すべての子どもは学べる

 「子どもたちは、その子なりに価値がある」のではなく、「すべての子どもは学ぶことができ、新しい未来を作り出す能力をもっている」と考えることが必要だと書かれています。

 現在の教室は、学習する能力を育てる環境になっているでしょうか。学力向上とそれを測定する評価が先走りしてしまい、教室の中では「測定できて見通しの立つ評価や目標ばかりに焦点を合わせる」状況になっているのではないでしょうか。評価することが目標になってしまうと、子どもたちはその評価軸によって、「勝者と敗者」というレッテルを押し付けることになります。

神経科学の新しい分野「神経可塑性」の研究

 子どもたちの発達に関して、神経科学の分野では「神経可塑性」の研究が進んでいるそうです。その中で分かったことは、「人間の脳は柔軟な適応性をもち、人生全体を通して新たな神経回路を常に再生し続ける能力をもつ」ということです。つまり、特定の学習だけを繰り返していると、新しい神経回路は作られず、脳の構造や機能に影響を与えるということです。
 例えば、教室で同じルーティーンで学習をする場合、子どもたちは集中を保てないことがあるかもしれません。慣れるというのはある程度は必要な状態かもしれませんが、新しい活動も取り入れていくことで、子どもたちの発達はより促進します。

共通する大切なこと

 はじめに紹介したように、教室はただ授業を受ける場所ではなく、学習環境がどのように設定されているかが、そのまま子どもたちの学習に大きく影響します。その中でも共通して大切にすべきことが、「互いに対する尊敬の態度」「学習者の目標とニーズへの関心」「発見の精神」とされています。
 つまり、子どもたちの一人ひとりが認められているという安心感があり、教員から期待をされる状況下で、課題にチャレンジしていく中でいろんな発見を喜ぶ環境が「学習する教室」だと言えます。特に、難しい相手や状況への対応は、誰にとっても厳しい課題になるため、そういったものにチャレンジできるだけのメンタリティを作ることが必要になるかもしれません。

「学習する教室」をデザインするには

 それでは、「学習する教室」をデザインをするにはどのようなマインドセットや取り組みが必要なのでしょうか。この時、カリキュラムや時間配分などの旧式の観点から始めるのではなく、自分の中にあるイメージを描くところから始めるようにされています。

 そこから、具体的な1日の過ごし方や、授業の様子などをイメージしていきます。この時は、実現可能かどうかにとらわれず、自分のイメージを広げることに集中することが重要です。次のステップでは、読み書き計算を超える能力として、どんな学びの空間を作り出したいのかについて、より具体化していきます。本書では、空間のイメージとして役立ついくつかの考えが提示されており、その中でも私が特に重要だと思った考えを引用しておきます。

「深い学びを強化する多くの条件が見えている。すなわち人の力の限界を認めること、自身の問題を提出すること、リスクを冒すこと、ユーモア、他の学習者との協働、思いやり、模範を示すことの重要性、道徳的目的の存在といった条件である」(ローランド・バース)

 「学習する教室」についてイメージができたら、その影響はどのようなものがあるかを考え、重要な項目を絞りながら、具体的に実現に向けてどのような準備や実践が必要なのかを考えていきます。最後に、実現に向けて進む中で起こりうる問題点などを出し、進捗の評価方法などを確立し、実際に取り組むことにつなげていきます。その過程でフィードバックを行いながら取り組んでいくと効果が高まります。このデザインについても本書では、より具体的に書かれています。

教えるシステム?学ぶシステム?

 産業化時代の名残がある学校にとっては、「教える」と「学ぶ」の区別やそれぞれの役割について考える機会は重要です。授業の中での実践について、両方のイメージを具体化していくことで、その違いが意識できるようになり、授業の質も向上することにつながります。

正当で、安全で、学びたくなる教室

 教室の中で、子どもたちが学びに没頭できるような環境づくりに必要なのはどんなものなのでしょうか。
 教員と学習者の関係性は、「教える」「教えられる」の関係ではなく、教員は「学習者の間にいる学習者」という位置付けが理想的だと考えられています。教員の役割は、自ら学びたいことからスタートすることが重要だと伝え、クラス全員にとって安全であることを守るように共通理解を求めることとされており、産業化時代に求められた何かを教えるという立場から、子どもたちが学べる空間を作るという立場に変化していることがわかります。

「信頼」から「自由」が生まれる

 子どもたちが教員の評価を気にする場面が度々起こります。学びに没頭するためには、それだけの安心感が必要なので、評価よりも学習プロセスに集中させるように促すことが求められます。その中で、子どもたちを信頼し、ある程度の自由を与えることが必要です。
 自由というのはすぐに確立できないかもしれません。手を挙げて発言することについても、これは教員に権威がある状態が継続されているので、一人ひとりが対話ができるようにする練習が必要です。そのためにサークル対話などを導入して練習することも大切です。

教室には「静寂」の時間を

 また、教室の静けさの重要性についても述べられています。子どもたちに瞑想させることは、集中力や創造性に貢献できる活動だと考えられています。そのため、教室の静寂を作り出す時間やルールの徹底に関して教員が働きかける必要があります。

相手への敬意を忘れない

 教室内では、子どもたちが残酷な行動をとることがあります。当事者はよく考えずに、ひそひそ話をしたり、呆れた眼差し、あくびなど、相手への敬意を持てない態度については、気にかける必要があると述べられています。
 このような行為は、子どもたちが安心して学ぶ空間を作る妨げとなり、本来の子どもたちの学びの潜在能力を失うことにつながります。また、いじめに発展する防止策として、相手への敬意を持った態度を日頃から教員が実践し、そういった行動を求めることは必要だと感じます。

毎日の積み重ねが「学習する教室」を作る

 最後に私の感想ですが、学校や教室での実践というものに特効薬はありません。そのため、毎日の愚直な教員の言動が子どもたちの心身の発達に大きく影響しています。うまくいかない時も、問題が起こってしまうことも必ずあります。そんな時に、隠したりやり過ごすのではなく、教室全体で問題に向き合い、対話できる環境を作るためには、同僚や管理職者のサポートも必ず求められます。そのため、「学習する学校」という機能的な組織が必要なのだということが理解できました。

 決められたことを遂行する方が圧倒的に楽で、新しい挑戦は課題や問題が発生します。その時に、「前の方が良かった」という気持ちが出てきます。しかし、こういった考えについても、「答え」がないという前提に立ち、自身が達成したいと思う空間作りに挑戦できるような学校現場が増えてほしいと思いました。

<参考文献>
・ピーター・M・センゲ他著、リヒテルズ直子訳『学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』(英治出版、2014)

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