見出し画像

国際バカロレア(IB)を学び、公立高校の社会科の授業で何を変えたのか

(2025.2.22更新)前回は、私が公立高校の現場で働きながら、父親になったことがきっかけで、今の学校教育に疑問に抱き国際バカロレア(IB)のカリキュラムに出会った話をしました。

 今回は国際バカロレア(IB)について学んだその後、私が勤務していた公立高校に戻り、どのように授業を変えたのかについてまとめます。IBというのは、簡単に言うと「探究や概念をベースとして学ぶ」のが特徴の教育です。IBがどういう学びなのかについては以下の記事を参照なさってください。


「木を見て森を見ず」教育の役割を根本から問い直す

「学ぶ」こと自体が目的ではなかった

 IBのプログラムを完璧なものだと思ったわけではありませんが、知識偏重型の教育を脱するのに参考にすべき要素があると感じました。当時はまだ日本のカリキュラムしか知らなかったので、学校の授業が何を目的としているのかをよく理解できていなかったのです。目先の目標、つまり大学入試をどう突破するか、その時間をどう楽しくするかといったことだけを考え、生徒たちが社会に出た後にも残るものという「教育の本質的な役割」についても考えることはできていませんでした。

学校教育が終わっても残るものとは?

 IBのワークショップでは、実際に授業で行われている手法を用いて活動したり、IBの教員として現場で働く方々の話を聞くことができました。私がそこで学んだのは、知識を確認することと活用するのとでは学習方法が全く異なるということでした。
 IBの「指導のアプローチ」にある「探究」と「概念」の学びは、私がこれまでに行ってきた知識偏重型の教科指導の方法では到底実現できないことだと気づきました。そんな中、授業を受けた生徒達がその後も活かせる学び方を伝える必要がある思い、そのために学校での授業の在り方を変えていこうと決めたのです。

まずは教員が授業方法を探究してみる

 これまで行ってきた授業は、教科書や資料集に載っている歴史的事実や、単元毎の主たる発問を構成し、決まりきった内容をどう教えるのかについて焦点を当てていました。
 ただ授業方法を変えると言っても、生徒たちの学び方を急に変えると混乱が生じます。そのため、これまでの授業のあり方を残しつつ「探究(自分で問題を見つけ思考を深める)」や「概念(事物の抽象化)」を持ち込み、授業やテストを作成するようにしました。

 具体的に、その時間に学んだことを他の単元にも応用したり、他の教科と横断する内容にしました。当時は世界史の授業で、進化心理学から見る人類の進化や古代の人類と生物学をつなげて考えてみたりしました。そういった活動は、学生の時に取り組んだことがほとんどなかったので、1つの授業を作るのに相当な時間がかかりました。しかしその成果は少しずつ見え始め、完全に受け身で座り、まるで映像授業でも聞いているような雰囲気の授業から、自分達で何かを生み出そうとする姿勢を見出すことができたのです。

授業や試験問題を変えるには、まずは「評価」を見直す

 私の頭を最も悩ませたのは「評価方法」でした。
評価を変えない限り、授業の構成を変えることはかなり困難です。選択式や一問一答形式の正解がある問題ばかり扱っていると、生徒が出す多様な種類の解答に対して、実際にどう評価するのかということについてかなり悩みました。これまでに教育雑誌などでルーブリック(学習到達状況を評価するための評価基準)の活用については目にしていたのですが、実際に導入するのはかなり難しかったです。

 IBでもルーブリックのようなマークバンド(採点基準表)を用いて評価します。これを、ワークショップで実際に他の参加者と取り組めたことは貴重な経験となりました。その評価方法を参考に、自分のルーブリックを何度も作り直した後に、生徒達にもルーブリックの目的を説明してその理解を深める活動をしたり、ルーブリックに基づいて生徒同士で点数をつける活動をしました。そして、少しずつ「探究や概念の学び」を授業や考査に取り入れていきました。そして、ようやく学年末の時期にルーブリックに基づく全問記述式の試験を初めて作成することができたのです。

学校現場で実践したこと

ここから先は

2,012字
公立高等学校での実践と経験を有料マガジンにまとめました。授業が成立しなくて悩んだり、働き方に疑問を持ちつつ自分ができることを考え取り組んできました。 ・工業高校で出会った専科の学びの重要性 ・アクティブラーニングで学ぶ受験対策の授業 ・高1世界史での探究授業 ・大学院生と現場教員の交流会 ・受験が終わった高3生との読書会 など学校現場で取り組んできたことを全て載せています。

公立高校の教諭として勤めた8年間(2012.4〜2020.3)の記録です。授業実践やクラス運営における生徒たちとの関わりについて、自分が実…

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?