【短編小説】綿密に立てた予定は必ず予定通りにならない
「よし、これで完璧だ」
10回に及ぶ修正を経て完成した予定表を眺め、達成感に浸る。
明日から夏休み。部活に所属していないので学校に行くのは休み終盤の登校日くらいだが、如何せん課題が多い。だから俺は地獄を見ないよう、あらかじめスケジュールを組んだ。
朝は変わらず、遅くとも7時には起床。そのあとは30分ほどジョギングなどの軽い運動をしてシャワーを浴びる。8時までには朝食を食べ終え、昼まで課題をこなす。また課題の効率化を図るために、30分おきに10分間の休憩を挟む。食後は1時間ほど休憩を取って気分がリフレッシュしたら課題を再開。5時に課題を止め、1時間から2時間ほど軽い運動。その後入浴してから夕食まで課題をやり、夕食を済ませたら自由時間を設けつつ寝不足にならないよう11時には就寝。
睡眠時間はおよそ8時間。課題にかける時間は6時間から7時間ほど。運動不足にならないよう体を動かす時間も設けた。そしてこまめに休憩を挟み気分をリフレッシュさせる。
「我ながら最高の出来だ」
自画自賛してしまうほどの出来栄えに笑みが零れる。
このペースなら夏休みの後半にかかるくらいには課題をほとんど終えそうだ。週1のブレークタイムもといブレークデーを作ってもいいかもしれないな。
そんなことを考えながらスマホで時間を確認すると、いつの間にか11時を過ぎていた。
早速予定が崩れている気がしなくもないが、今日はまだ夏休みではないのでノーカンでいいだろう。
出来上がった予定表をマスキングテープで机正面の壁に貼りつけ、部屋の電気を消してから布団に潜る。
夏休みが楽しみでならないぜ。ふふふ――
◇
――そして、朝。
「やらかした……」
10時半。スマホに表示された時刻は、何度確認しても変わっていない。いや、正確には最初に確認したときから5分ほど進んでいるが、それはさておき。
「くっ、3時間も寝坊してしまった……」
そんな後悔を抱きながら、母親からのLINEを確認する。
『全然起きてこないから、朝ごはんラップして冷蔵庫に入れといたよ。あとお昼は昨日の肉じゃがの残りが冷蔵庫にあるから、それ温めて食べて』
『了解』と返信してから俺は部屋を出る。
とりあえず運動は中止。さっさと飯食って課題をやらないと……っ!
焦りを感じながら冷蔵庫を開ける。朝食であろうベーコンエッグとサラダを取り出す。ついでに残りの肉じゃがも確認。
半熟ではなくなってしまうがベーコンエッグをレンチン。その間にご飯を茶碗によそって、コップに麦茶を注ぐ。
適当にドレッシングを選んでサラダにかけているとレンジから温め終了の音が鳴る。
それらをテーブルに並べて席に着く。
「いただきます」
合掌してから、早食い勝負のようなスピードで平らげる。
ものの数分で食べ終え、食器を洗って俺はリビングを後にした。
時間が少ないし、休憩はナシだ。
そう決めてワークを開き――
「お兄ちゃん遊ぼー!」
バンッ、と勢い良く扉が開かれた。妹の美咲だ。
「無理だ。俺は課題をやらねばならん。というかお前も課題をやれ」
「えー? まだ夏休み始まったばっかだよー? 課題なんて後でいいじゃん」
「去年それで最終日に泣きついてきたのはどこのどいつだ?」
「……お兄ちゃんだっけ?」
「お・ま・え・だ・よ!」
「またまたあ」
いったいどこが『またまたあ』なのだろうか。
「今年は大丈夫だから! ね? ゲームしよ?」
「断る」
「おーねーがーいー」
「い・や・だ」
「遊んでくれないと、お兄ちゃんにイタズラするよ?」
「……具体的には?」
「くすぐったりー、のしかかったりー、夜こっそりお兄ちゃんの解答を消したり」
「お前、マジでそれだけはやめろ」
そんなことをされたら永遠に課題が終わらない。
さすがにそこまでしないかもしれないが、美咲には謎の行動力があるのでやらないとも言い切れない。
「……わかったよ。でも少しだけだぞ」
苦渋の選択だが、課題を消されるのに比べればマシだ。
了承すると、美咲は「やったあ」と能天気な声を上げて抱きついてきた。
「本当に少しだけだからな?」
「わかってるよー。じゃあなにからする? マ○カー? ス○ブラ?」
「じゃあスマ○ラで」
「おっけー。即死コンボ練習したからやってあげるー」
「おいこら、それはきたねえだろ!」
その後、少しだけという俺の条件は守られず、途中昼食を挟み母が帰ってくるまで計6時間もゲームをしてしまった。なんなら夜も美咲がやって来て、深夜の1時までゲームに付き合わされた。
どうして綿密に立てた予定は、予定通りにならないのだろうか――
あとがき
読んでいただきありがとうございます。吉乃直です。
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ここ最近は短編小説ばかりですが、また創作に関する記事も書いていきます。また短編小説は気まぐれで今回のようにあとがきが付きます。
よければ他の記事、短編小説も読んでみてください。それでは。