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書評|『君に友だちはいらない』瀧本哲史(講談社)

この国の将来に危機感を抱き、2019年8月10日に47歳で亡くなるまで、次世代の教育に力を注ぎ、若者に檄を飛ばし続けた瀧本哲史さんがチームアプローチ、つまり「仲間づくり」の重要性について説いた2013年の一冊。

2011年に出版された『僕は君たちに武器を配りたい』を読んで、気になる感想を寄せてきた若者に対する「回答」だという。

【目次』
第1章/秘密結社をつくれ
第2章/本当の「よいチーム」とはなにか
第3章/ビジョンをぶちあげろ、ストーリーを語れ
第4章/よき仲間との出会いのために
第5章/チームアプローチはあなたと世界をどう変えるか

冒頭で取り上げられるのは、スティーブン・スピルバーグ、フランシス・フォード・コッポラ、ジョージ・ルーカスなど、世界の映画史上、もっとも偉大な監督たちに大きな影響を与えた黒澤明監督の『七人の侍』。この映画の土台を支えるのは、世界中の映画人から「完璧」と賞賛されるシナリオであり、黒澤のほか、橋本忍、小国英雄という当時の日本を代表する脚本家の「チームの持つ力」によって世界的名作になった、と。

いったいどうすれば、再びわれわれは、『七人の侍』のようなスーパーチームを、あるいは映画史に残る傑作を作り上げた黒澤たちのようなチームをつくることができるのだろうか。

大きな世の中のパラダイム・シフトは「世代交代が引き起こす」。世の中を変えるのは、いつの時代も、世界のどこであっても、古いパラダイムや価値観にとらわれていない新人(ニューカマー)だ。

しかし新しいパラダイムも価値観も、ひとりだけの力では世の中に広めていくことは難しい。だからこそ、新しいことを始めようとしている人、そして若い人たちに必要なのが「チーム」をつくることであり、自分とビジョンを共有し、その実現に向けて行動する仲間を見つけ出して、初めてスタートラインに立つことができるのだという。

どうやって仲間と出会い、チーㇺをつくっていくのか。

朝日新聞「プロメテウスの罠」取材チーム、途上国の子どもたちに学習支援を行うNPO「E-エデュケーション」、日本コカ・コーラ「い・ろ・は・す」開発チーム、アーティストの資金援助などを手がける「ミュージックセキュリティーズ」、オーディオブックで成功した「オトバンク」、そして東日本大震災で生命の危機にさらされた584人の透析患者を救った東京大学医科学研究所の上昌広医師を中心とする医療チームなど、数多くの実例をあげながら、述べられる。

どのような人を引き寄せるか、どんな人が自分に対して関心を抱くかは、その人自身の人生の反映であり、「まわりにロクなやつがいない」というのは、鏡に向かって悪口を言うのに等しい。

各章の最後には「まとめ」として、瀧本さんからの檄文が発せられている。

★SNSで、友だちの数を競ったり、ライン(メッセンジャーサービス)の既読に一喜一憂したり、居酒屋やシェアハウスで、愚痴を言い合ったり、そんな、「友だち」ごっこは、やめにしないか、人生の無駄遣いである。

仲間の数を増やすのではなく、少数の仲間の質を追求すること。

チームのメンバーは、多様性があればあるほどよい。

そう主張し、自分にとってより価値の高い「つながりの場」を見つけるために覚えておくと役に立つ「ウィークタイズ」という概念を紹介し、ネットワークを「棚卸し」する必要を説く。

世界中から天才的な才能を持つ学生を「青田買い」していった無名だった頃のグーグルが行った採用方法、2004年にシリコンバレーの高速道路に出したエンジニアへの挑戦状のような1行の「看板」の採用広告には驚かされた。

瀧本さんの本は、基本的に20代から30代前半の若者が中心読者だが、企業の採用活動についてふれている第4章は、採用・人事に関わる人なら誰もが興味深く読んでしまうはずだ。

受け入れる側も、画一的なリクルーティングを続けていては、これからの時代を生き抜いていくことはできない。新しいパラダイムに対応するためには、採用や人事を変えていく必要があるだろう。

★日本は、自然発生的に集まった「なあなあ」の関係のゲマインシャフト的な集団を、目的がきちんとあるゲゼルシャフト的な集団へと転換していくプロセスにある。

だから……。

夢を語り合うだけの「友だち」は、あなたにはいらない。
あなたに今必要なのは、ともに試練を乗り越え、ひとつの目的に向かって突き進んでいく「仲間」だ。

瀧本さんは、若者に、そして彼らが描く夢、挑戦し、築いていく未来に期待して、たくさんの厳しくも熱いメッセージを残していった。受け止める側に、本として残されたその思いを、きちんと届けていきたい。

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