【新連載】「こころの処方箋」を読む生活(pp.10-53)
柿内正午(かきないしょうご)さんの「プルーストを読む生活」という本がある。これは、プルーストの「失われた時を求めて」の十巻セットを購入してしまい、それをひたすら読みながら、日々の雑感を綴っていくという本である。始めはZINで出されたようだ。
内容は必ずしも「失われた時を求めて」の内容ではなく、というか、大体が日常のエッセイである。それでも、やはりどこかにプルーストの影が見えるから、そこがこの本の根っこをつないでいる。日々がぶつ切りにされることなく、どこか長編小説のようにも読めるのは、だからだと思う。(とても長い。)
もちろん、ずっとプルーストばかり読んでいるわけではなく、いろいろな本にちゃんと浮気している。そもそも、本を併読することは珍しくはない。僕だって、日々数冊を並行して読み進めている。
ということで、真似したくなった。一冊の本と向き合いながら、日々の雑感を書きとめていくという営みに憧れた。それはもちろん、この本が魅力的だったからである。
僕が選んだのは、河合隼雄の「こころの処方箋」だった。プルーストの持っていた「こんなの読み切れない」の対極にあるような、「これなら読めそう」の代表選手である。
というのも、卒業論文は河合隼雄(実際にはその中でも河合隼雄の神話論における「ヒルコ」について)をテーマにしようと決めてから、まあまあ河合隼雄の著作には触れてきた。しかし、実は「こころの処方箋」にはちゃんと向きあってこなかったのだ。学習テキストの出典にとられているのを読んだくらいで、本すら持っていなかった。
数日前にふとしたことから(東畑開人さん経由)知った森田健一(もりたけんいち)さんが、日本心理臨床学会という心理学最大規模の学会の公開講座でおすすめされていたので、改めて読んでみたいと思った。(ちなみに、森田先生のYouTubeラジオが最高すぎて、聞きまくっている。東畑開人、笹倉尚子両氏とのコラボから聞き始めて、虜になってしまった。歌も最高。本も買った。)
そして、改めて読み始めた記念で、今までにない読み方として、線を引きながら読むことにした。僕は基本的に本は読み終わったら売るし、貴重な本の場合でも書き込みたくないので、線を引いて読むことはない。
しかし、たまたまこの本を読み始めた場所がfuzkueで、その場にあった「失われた時を求めて」をめくったときに、そこに線が引かれていたのを見て、ひらめいた。こんな読み方もいいかも。後から読んでも、これってけっこうおもしろい。
同時に、「こころの処方箋」は、一筋縄ではいかない本である。先日の河合俊雄さんと鏡リュウジさんのトークイベントでもおっしゃっていた。河合隼雄は、簡単そうで難しいのである。だから、じっくり読むのもいいかと思った。
ということで、線を引きながら読み始めた。ついでに、予てから読んでいた河合隼雄の「ユング心理学入門」も線を引き引き読むことにした。こちらは二周目である。
さしあたりfuzkueで読んだのが最初の「人の心などわかるはずがない」から、十一番目の「己を殺して他人を殺す」まで読んだ。内容について触れる余力はないので、またの機会があるのかはわからないけれども譲る。
ともかく、本作品を核に据えながらも、煙に巻いていきたいと思う。
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