水中の哲学者たち【読書のきろく】
「吉村さんなら、1日で一気読み間違いなし」
そう言いながら、地域でお世話になっている人が新たな本を紹介してくれました。著者は、永井玲衣さん。哲学研究者だそうです。
哲学と言ったら、考えることという印象を持っています。生きるとは、愛とは、人間とは、など人生の根幹にあたるような問いを問い続ける。そんな感覚です。
哲学についてしっかりと学んだわけではありませんが、僕自身、悶々と考えることは好きで、暇さえあれば頭の中を何度も同じ問いが巡っている状態なので、肌に合うんだと思います。
「読みますか?」の問いに、読みたいですと即答した本は、『水中の哲学者たち』。
今度会った時に、と言いながら、なかなか僕が時間を取れずにいたら、
「とりあえず、郵便受けに投函しました」
とのLINEと共に我が家に届きました。とてもありがたいです。
予言通りに1日で読み終わるのかと自分に問いながら本を開き、まえがきを読んだ瞬間、しびれました。軽やかな文体だけど、深い。ひと言で表現するなら、好き。
考え抜いたものをきれいに整理して理路整然とまとめているのではなく、考えているまさにその過程を大切にしてそのまま書かれているような印象を受けました。もちろん、文章になるまでにかなり練られていると思いますが、悶々としている状態が省略されていません。考えることに伴走してもらっている感覚になりました。
そして、思いました。
一気読み、したくない。
結果、長距離移動でまとまった読む時間を確保できた日を含めて、3日かけて読みました。2時間の電車の中で、ウトウトの「ウト」もすることなく読み続けたくらい、おもしろかったです。
中身には、永井さんが実践してこられた哲学対話で出会った人たちの対話の様子が描かれています。哲学対話は、小中学校でも開催されていて、子ども達から飛び出す問いのやり取りは純粋で鋭くて、感動します。永井さん本人の幼い頃からの考えることを通じた世界との関わり方も、とても興味深いです。
世の中には、まわりくどいことや余計なを考えずにうまくやっている人が多いのか、それとも実はみんながいつも胸の内では悶々としているのか、目には見えないから分かりません。僕は悶々派です。
本の中に登場する言葉や行動を読んでいくと、すごく安心する僕がいました。安易に共感するとは言っちゃいけない気がして、でも、その悩みや問いが確かにあるのが分かって、みんなそれでいいんじゃないかと思えてきます。
「許可」の表現は言いすぎで、「否定の停止」みたいな感覚。
自己否定がなくなったところを出発点にすると、力を抜いてそこに存在できるようになる。閉じ込めるものがなくなって、ふわふわと漂うことができる。それが、水の中なのかもしれない。勝手に僕の中で解釈が進みます。
「あなたはそう受け取ったんですね。」
勝手に、そう言ってくれているような気がしました。それでいいとも悪いとも添えずに。
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著者の永井玲衣さんを知るきっかけになったのは、こちらの対談動画です。
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