ひたすら面白い小説が読みたくて【読書のきろく】
軽い気持ちで読んだら危険。熱量がハンパない。
出会いは、noteで。よく読ませてもらっている方が紹介されていて、ピンとくるものがありました。これは面白そうだぞ、と。
ビジネス書でも、小説でも、ノンフィクションでもないのが、この本。
なんと、文庫本の小説の巻末に掲載されている「解説」が、42冊分集まって一冊の本になっています。
42個の解説は、すべて一人の人が書いています。児玉清さんです。40代前半の僕にとっては、児玉清さんと言えば『アタック25』。児玉さんの表情や声が懐かしい。
文庫本の「解説」は、人によって、あるいは気分によって、大きく2種類の読まれ方をされますよね。小説そのものを読む前もしくは途中に読まれるパターンと、小説を読み終えてからのパターン。僕は、後者です。
この本を読むと、とにかく児玉さんの熱量に圧倒されます。
「この作品へようこそ」と迎え入れてくれるところから児玉さんのあの声が頭の中で鳴り響き、小説が好きで好きで、面白くてたまらなくて、魅力を少しでも目の前の人に伝えたいという気持ちが、全体から溢れ出しています。
たとえば、こんな感じで。
好みの滅茶面白小説に出逢えたときの喜びは爆発的なものがあるが、世の中にはそうそう滅茶面白小説が転がっている訳じゃない。それだけに『天涯の船』を読んだときの喜びは、それこそ天に昇る気持ちだったのだ。しかも、この物語は滅茶面白いばかりか、その上さらに、人生への沢山の示唆に富み、また歴史の不可思議さ、さらには未知の世界まで教えてくれる点でも最高に素晴らしいのだから、まさに感動の一冊なのだ。
>p.120 玉岡かおる『天涯の船』より
どの本の解説もこの調子で力説されるから、もしも「どんな本なのか、解説を読んでざっくりと分かればいいや」くらいの軽い気持ちで読んでしまったら、さぁ大変。
身ぶり手振りを交えて面白さを語る姿が浮かび、心が揺さぶられ、あっという間に虜になってしまいます。
しかも、ぐいぐいと引き込んでおきながら、すべては語られずあとは読んでのお楽しみと来たら、読みたい本が増える一方です。
なんて危険な本なんでしょう。
これほどの傑作をお読みでないとは、最高にもったいないことですぞ!
>帯の写真に添えられている児玉さんのことば
それぞれの解説は、どんなところに心惹かれたかが丁寧に綴られているので、読み重ねていくことで児玉さんが小説に求める共通項が浮き彫りになってきます。
3つに集約するなら、魅力的な登場人物、読者を引き込む物語の構成、綿密な調査。
主人公に感情移入して喜びや悲しみを味わい、時には恋もし、次々に展開するストーリーに没入し、綿密な調査に裏付けられた事実との出会いに感動する。
僕自身がまだまだそのレベルに至っていないことを直面させられると同時に、そこをクリアできれば面白い小説を書くことにつながるんだという光も与えてくれました。
そうそう。
読んでみるか、目次に並ぶ本のリストを確認すると分かるんですが、僕にはひとつ疑問が湧きました。
どうも、解説を書かれている、もしくは、今回の本にピックアップされている作品が、歴史小説が多いように感じるんです。
その謎は、この本の「解説」で解き明かされました。解説を担当されているのは、梯久美子さん。ノンフィクション作家で、戦争ものを多く手掛けられているようです。
歴史小説の中でも、剣豪ものが多い。それは、児玉さんの少年時代にルーツがあります。剣豪ものの主人公の生き様に、少年時代の辛さを乗り越えるヒントを見出したとのこ。それが、大きくなってからも、困難に立ち向かう力になっているそうです。梯からの児玉さんへのインタビューによって、明らかになっています。
児玉さん自身が本に救われた経験をお持ちだから、その可能性を一人でも多くの読者に届けたいという想いがあったのでしょう。それが分かると、一つひとつの「解説」に対する感動がさらに深まります。
どんなエピソードがあったのか、それは読んでのお楽しみということで。
「これほどの傑作をお読みでないとは、最高にもったいないことですぞ!」
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