架空の犬と噓をつく猫【読書のきろく】
「嘘」と「人の生き方」が重なって生まれた物語
おもしろい作品に出会うと、その作家さんの他の本も読みたくなります。初めて触れる作家さんのときは特に、図書館で借りることが多いかな。
先月読んだ『水を縫う』に感動して、寺地はるなさんの作品読みました。
あらすじも確認せず、どんな話かまったく分からないまま読んだら、こちらもおもしろかった。
この物語では時の流れが大事な要素のひとつで、「○年○月」が各章のタイトルになっています。1988年5月から始まって、2018年5月まで。そこをたどっていると、主人公が僕と同級生であることが分かりました。
しかも、舞台は九州。名前が明確に出てくる佐賀と、おそらく福岡も。
なので、とっても親近感がわきます。
そのおかけで、あれこれ考えることができました
軸となるキーワードを選ぶとしたら、ひとつは「嘘」。
そこに「人の生き方」が重なって、物語が生まれる感じ。
嘘は、やさしさになりえるのか。
誰かのためにつく嘘は、本当は誰のためになっているのか。
嘘は、不要なものなのか、役に立たないものなのか。
嘘に救いを求めたら、だめなのか。
主人公家族と、彼らを取り巻く人たちの物語から、そんな問いかけが飛んできます。
人を傷つける嘘はよくないけど、笑顔になれる嘘ならいい。そんなことも考えてしまうけど、「笑顔になれる嘘」だって、どこかで誰かを傷つけるかもしれない。それは、真実だって同じこと。それならどうしたらいいんだろう。
ぐるぐると、渦に呑み込まれそうになります。
ひとつの道筋を示してくれたのは、おばあちゃんの言葉です。
「世界に、役に立つものしか存在せんやったらあんたどうする?」
お芝居は役に立つ?絵は?音楽は?漫画は?お子様ランチのチキンライスの上の旗は?女の子のスカートの裾に縫いつけられたフリルは無駄?無駄なものが全然ない世の中なんてフッ、と祖母は鼻で笑う。
「そんな世界、おことわりよ。そう思わん?」
>p.102(1988年8月)より
「役に立つか否か」の物差しだけでは、なんか窮屈な気がする。僕もぼんやりと考えていたことをおばちゃんが表現してくれて、ハッとしてホッとしました。
思えば、主人公の気持ちを受け止めつつ、さりげなく大切なことを示してくれるのは、両親よりも祖父母。特におばあちゃんである物語は、たくさん存在しているのではないでしょうか。現実世界でも、そのくらいの距離感にいる人との関係性は、とても重要な気がします。
ものすごいインパクトがある物語ではないけど、じんわりと心に残るお話。僕は好きです。
単行本と文庫の表紙が微妙に違うのも、なんかおもしろい。
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