テレビゲームと癒し
ずいぶん前に買って、何度か読んだ本。ふと思い出して再読。
精神科医である著者が、「ゲームは子どもの成長や心に悪影響である」と言われる風潮に対して、「はたして本当に悪影響だけなのか?」「心の成長や癒しの効果を認めることはできないか?」という切り口で挑んでいます。自身のゲーム経験や実際の子どもとのカウンセリングの体験が交えられているほか、たくさんの専門家の意見が取り上げれていて、善悪どちらかに偏らずに冷静に分析されているのがとても読みやすいです。
帯に『試論』と書かれている通り、これが正解だと主張を押し付けるのではなく、新たな視点を著者と一緒に考えていけます。
1996年に出版された内容なので、ジャンルや端末、インターネットを介したつながり方など、ゲームを取り巻く環境は大きく変わっています。でも、ゲームをどう使うか(保護者の場合はどう使わせるか)、さらには、情報とどう付き合うかという観点で、とても考えさせてくれる一冊です。
参考までに、ゲーム関連の歴史を振り返るとこうなります。1979年生まれの僕は、中学2年頃(1992年)にスーパーファミコンを買ってもらいました。
参考情報(ゲーム関連の歴史)
1983年:ファミリーコンピュータ
1986年:ドラゴンクエスト
1989年:ゲームボーイ
1990年:スーパーファミコン
1994年:セガサターン、PlayStation
1995年:Windows 95
1996年:ポケットモンスター 赤・緑、NINTENDO64、たまごっち
2000年:PlayStation 2
2004年:ニンテンドーDS、PlayStation Portable
2007年:iPhone
2017年:Nintendo Switch
出版当時も、そして今もそうですが、どちらかと言えばゲームは子どもにとってネガティブなものとして語られます。ゲームにのめり込みすぎた結果、現実と非現実の境があいまいになり、人を傷つけるような犯罪につながったり、命に対する認識が薄れてしまうという問題も生じる。現実の人づきあいが苦手になり、社会生活に支障をきたしてしまう。依存症にも気を付けないといけない。など。
ほかにも、視力が悪くなることや、姿勢が悪化するといった影響もある。
通信機能が備わったことで、離れている友人だけでなく、見ず知らずの人、さらには悪意のある他人ともつながることができてしまい、悪影響の範囲も大きくなる。
たしかに、うちの子どもたちを見ていても、その危険性を感じることがあります。そうならないように、ゲームをする時間やルールを決めたり、外でも遊ぶように意識したり、姿勢が悪いときには注意したりと、気を付けながら遊ばせている状態です。
でも、決して悪いことだけではありません。自分たちで時間を管理するようになっているし、ゲームの内容が家の中での話題になり、僕も交じって楽しい会話が生まれています。調べる力が養われているとも思いたい。
この本の中でも、カウンセリングの現場で、ゲームをきっかけとした交流が紹介されています。対人交流が苦手だったり、病的なこだわりがあって通院してきた子どもが、ゲームの話題から心を開いて会話できるようになった事例や、自分が自分だと思えない子が、難しいゲームの世界で自由にふるまえている様子など。「ゲームのおかげで」という話が少なくありません。
だからと言って、「癒しを求めてゲームをやるべし!」という極論ではなく、いい影響と悪い影響をそれぞれ見つめながら、これからも考えていきましょうという姿勢。すごく共感しています。
「おわりに」で語られていることを紹介させてもらいます。
このように見ていくと、テレビゲームに関して積極的な評価を試みる研究より、最初からその悪い点を指摘しようとする研究の方がまだまだ圧倒的に多いのです。なんとか、もう少しお互いのバランスをうまく取り、科学的にも納得のいく結果を導き出せるような方向には進まないものでしょうか。そのことを考えると、私は少し悲観的な気分になります。
テレビゲームの中でも、心は癒され、成長する。しかし、その「癒し」や「成長」は、私たちが今までの経験や知識から簡単に理解できるものとは異なっている。
これが、私のお話の一応の着地点です。
>テレビゲームと癒し 香山リカ著|岩波書店 p.208・209より引用
「最初からその悪い点を指摘しようとする研究」については、本の中で紹介されている専門家の意見からも感じられるものでした。未知のものであるという対象物や、ゲーム経験の有無、好き嫌いの感情も影響しているのではという分析もあります。
ゲームのことに限らず、僕たちが何らかの情報に触れる時にも、気を付ける必要があるのではないでしょうか。
かっこ書きで補足として入れられていた以下の部分も、とても大きな問題につながりそうだと感じました。
私は、テレビゲームのいちばんの悪影響は、社会で何かが起きたときに「原因はテレビゲーム」とその名前が出た時点で、人々の考えがストップしてしまうことにあるとさえ思っています。
>テレビゲームと癒し 香山リカ著|岩波書店 p.97より引用
「テレビゲーム」を他の言葉に置き換えても、当てはまるものがありそうですね。
僕も、数年前に担当したカウンセリングでは、クライアントさんがお話しされたソーシャルゲームの話題が会話の糸口になる場面がありました。他にも、ゲームやキャラクターの話題のおかげで、カウンセリングを進めることができた経験もあります。ゲームの良し悪しを語るのではなく、それを通じて本人が感じていることを教えてもらうような感覚です。
最近では、『eスポーツ』という言葉が生まれ、ゲームに対して新たな光も当てられています。悪い部分には対処しないといけませんが、良さがあるなら伸ばしていきたいと感じます。
悪いところだけではないし、良いところだけでもない。自分の世界だけで判断せず、思考を止めず、ありのままを見て考える。ゲームに対する視点に加えて、物事の見方について冷静さを与えてくれる一冊です。
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読書のきろく 2020年28冊目
「テレビゲームと癒し」
#香山リカ
#岩波書店