【読書のきろく】人間の深層にひそむもの
時々読んでおきたい河合隼雄先生の著書。
今回はこちら。
タイトルどおり、人の心の奥に迫った一冊です。
初版が発行されたのは1979年。僕と同い年の本です。と言うことは、ここで語られている「現代」は40年前の話。でも、2020年に持ってきても、思い当たることがたくさんあります。
夢や無意識、未確認飛行物体(UFO)から、現代人の心理不安を探る、第一章。
子どもを取り巻く環境、親子関係を探る、第二章。
昔話が現代に何を伝えているかを探る、第三章。
『ゲド戦記』と『モモ』を題材に、ファンタジーとこころの構造を探る、第四章。
半分以上が、各分野の専門家との対談形式。気になる話題を会話の中で深掘りしてくれるのが、対談の魅力です。今回も楽しませてもらいました。
おもしろかったのが、「昔話」にまつわる話題。
その中で、テレビ番組の昔話と、語って聞かせる昔話は、まったく別物であると語られています。
「テレビでは、なにもかも決まっているからおもしろくない。」と語る、河合先生のお子さんたち。見た目も、声も、キャラクターが出来上がっています。なので、物語の中に自分の世界を重ねることができません。
反対に、語ってもらうのを聞いたり、自分で読んだときには、自分が主人公となって動き回ったり、嫌いな人や怖い人を怪物に似せて思い描くことができます。
また、テレビでは流れてくるスピードが決まっていて速すぎるけど、語り聞くときには、自由な時間が流れます。間をおいたり、他のことをはさんでみたり、そこで生まれた問いに向き合ってみたりと、こちらの心の動きに合わせることができるのです。
僕が動画が苦手な理由を解説してくれた気がして、すごく納得しました。
この本でも他の著書でも繰り返し語られていますが、心と向き合う時には、マニュアル通りにはいきません。誰か有名な人がうまくいったやり方を自分のことに持ち込んでみても、同じ結果にならないことの方が多いくらいです。ひとりの人の中でも、時と場合によって、反応や感じ方は違います。
一人ひとりのスピードに合わせ、その時その時に向き合うしかありません。
何千年もの時間をかけて語り継がれている昔話は、ある意味、真実に迫るものだけが生き残っている。だから、今の時代に大切なものを教えてくれる。とも語られていて、改めて昔話に触れたくもなりました。
『ゲド戦記』と『モモ』の部分は、対談形式ではなく、河合先生のみの文章で、講義を受けているような感じでした。
両作品とも、今回の本を読む前に読んでいてよかったと思いました。河合先生の解説は、なるほどそういう見方ができるのかと、とても勉強になります。でも、僕の場合、先にそれを知ってしまうと、そのように読まなければならない・・・という固定観念が生まれていたでしょう。
物語を純粋に楽しんで、解説を読んで、改めて物語を読み直せば、より深く楽しめそうです。
無意識との付き合い方を知りたい。
子どもや親子関係の理解したい。
昔話やファンタジーをより深く楽しみたい。
どれかひとつでも当てはまるなら、きっと楽しめる一冊です。
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読書のきろく 2020年40冊目
「人間の深層にひそむもの」
#河合隼雄
#大和書房