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ショートショート集

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私のオリジナルの短編小説も含め、気に入った短編小説を集めてみました。
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記事一覧

鳥獣戯画ノリ[ショートショート]

 このモノクロな殺風景な教室に集まったのは、ペルー出身で菓子袋を脇に抱えた妊婦、ブラジル出身でスラッと背の高い女学生、韓国出身でスーツ姿の中年サラリーマン、インド出身で背中を丸めたおじいちゃん、そして、日本出身で小綺麗な格好をした主婦。  第二言語である『英語』の習得を目的として集まった仲間ではあるが、 それぞれが独特の強い訛りを持ち、単語だって、数えるしか持ち合わせていないのが実際のところ。 急に趣味の話をしろと言われても、困ってしまう。 「それは、どういう意味?」

告白水平線[ショートショート]

「卒業おめでとう!」 推しのアイドル、サンちゃんが ホライゾンから卒業する日が来てしまった。 「君なしの人生は、もう考えられない。 真っ暗だった僕の毎日に光を灯し、生きる喜びを与えてくれたんだから。 なんだか、遠い存在になってしまった気がしていたけれど、 また、こうして話すことができている。 戻ってきてくれて嬉しいよ。」 本当の気持ちをひた隠し、凪の心で淡々と思いを語る。 そんな、僕の思いを知ってから知らずか、 最後だというのに、彼女はいつも通りの眩しすぎる笑顔だ。

未来の断捨離[ショートショート]

ー断捨離とは、必要で無くなったものを手放す行為です。ー 「はっ??」 信じられない驚愕の事実に言葉を失った。 先祖の記憶から過去を学んでいる僕は、 物で溢れて過ごす人々の姿を見た。 可視化されたエネルギーが『お金』という数字であり、 その数字だけが、減ったり増えたりするだけにしか見えないエネルギーの交換は、物を気軽に所持したり、手放す自由を人々に与えた。 そして、罪悪感や、不安からくる悩みに、 人はより多くのお金を払う事に気づいた人々が、 悪循環から抜け出せないビジネ

最後のマスカラ[ショートショート]

 「最後は、マラカスっと。」と、言いながらホワイトボードに書きだす。 「はっははは!」と、生徒たちが突然、大声で笑い出すものだから、肩がビクッっと、上がった。  また、私の見てない隙を見計らって、誰かが悪さでもしているのかと思うと、「ハァ〜。」と深いため息が出る。 ゆっくり振り返ると、 「先生〜。マスカラじゃなくて、マラカスでーす!」 クラス1のお調子者の高橋が黒板を指さしながら笑っている。  「え?あ、本当だ。ごめーん。」 黒板にずらりと並んだ打楽器名の最後に書いた、