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【詩】ふくらんでゆく

いつしか
自分が何者かわからなくなった
時の狭間で迷子

迷子のままで公園を歩く
風が誘うので歩く
たどり着いた場所では
光が揺れている
語りかけるものがある
語りかけるものたちが

春はふくふくとふくらむ
内側からふくらんでいる
柔らかなものの芽と
花びらたちが
ああ
硬い樹皮の内側までも

あなたの内側にも
ふくらもうとしているもの
あなたがあなたと思っている
輪郭線を突き破って
あなたの知らないものへと
変容したがっている
変容していく

そうやって世界は移ろってゆく
私だって例外じゃないんだ
自分が何者だかわからない
迷子の私でも
春の指先は優しく触れる
私が何者であっても
関係ないみたいだ

ほろりほろりと
春の指先の触れたところから
生きとし生けるものは皆
ふくらんでゆく
さようなら
ふくらむ前の私
さようなら
ふくらむ前の街並み

水鳥たちは群れ
ついと水の上をゆく
時々羽ばたき
時々潜ったりもする
水鳥たちが羽ばたくと
水面の光の綾たちは
千々に乱れる

外のものたちと
内のものとが呼応する
外が揺らめくと内も揺れ
内側がざわめくと
外のどこかで木々がざわめく

私が何を考え
何を想い
何者であるとしても
すべては淡くほどかれている
ぎゅっと世界を縛っていた
認識のたがが外れている
ただ世界を映して揺れる
ほどける

春とともに



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