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【詩】ボート池のほとり

静かなボート池のほとり
まだ誰も踏みしめていない朝
水鳥たちの羽ばたきが
やけに大きく響いてくる
凛と冷えた空気を肺に送り
眠気を吹き飛ばした

暦は大寒
空は高く澄み渡り
霜柱を踏む音もさくさくと
私の心を弾ませる
子どもの頃はこんなふうに
わざと霜柱を踏んで歩いたっけ

さざ波に揺れる水面が
空の青を分割している
いくつにも切り分けられた空に
細かな氷の粒が光っている
水に映る空は成層圏の夢を見る
ちかちかとまたたきながら

凍てつくように寒いとき
故郷では「しばれる」といった
東京に暮らすようになって
あの凍てつくような感覚を
体感することがほとんどなくなった
東京はあまりしばれない

放射冷却現象で空が青く冴え渡り
大気はきりりと冷えて
耳が痛むほどのしばれる朝を
時々むしょうに懐かしく想う

陰鬱な雲が心にかかっていても
一瞬で吹き飛ばしてしまうような
高くて青い冬の朝
今朝は東京もしばれている
水溜りには薄氷
霜柱は足の裏でさくさくと崩れる

家を出たときは
寒さに縮こまっていたけれど
歩いているうちに愉快になり
背筋を伸ばしてぐんぐん進む
今日という一日が始まる
しばれる朝を呼吸して
私の日常は刷新される

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