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【散文】12・ユグドラシルの吊るし人
北欧神話では、完全なる父が空間の大きな裂け目に、巨大な世界樹・ユグドラシルを創造した。それはとねりこの木であり、生命と時間と運命の象徴であった。
世界樹・ユグドラシルは霊の根、地の根、地獄の根という3つの根を持っていた。霊の根は神々の住むアスガルドに源泉を持ち、ウルダルの泉によって潤された。地の根は人間の住むミッドガルドに源泉を持ち、ミミルの井戸によって潤された。地獄の根は死者の住むニフル・ヘイムに源泉を持ち、フヴェルゲルミルの泉によって潤された。
世界はこの大樹の枝葉の上に存在するとされている。枝の上には9つの天球があり、物知りの鷲や鷹が棲んでいる。そして地中には蛇が棲んでいる。
ミミルの泉は知恵と知識の泉であったので、知を欲したオーディンは自分の片方の目と引き換えに泉の水を一口飲んだ。
西洋の絵画では、オーディンは立派なあごひげを蓄えた老人とされ、つば広の帽子の下の片目はつぶれている。片手には槍を持った姿で描かれることが多い。
オーディンは知識の代償として片目を差し出し、魔術を会得した。
彼はさらに知識を得ることに貪欲であった。ルーン文字の秘密を得るために世界樹・ユグドラシルに縄をかけて自らの身を吊るしたのだ。9日9晩、オーディンは吊るされていたが、とうとう縄が切れて一命をとりとめた。世界樹に自らを吊るしたのは、創造神への自己犠牲のためであった。
ウェイト版の吊るし人は、オーディンをモチーフにしているという。すなわち、ここに描かれた受難の男性は自らを喜んで供物として差し出しているのだ。
一見、身動きの取れない苦しい状況を表しているかに見える図像だが、よく見るとその表情は穏やかで、頭には後光が挿している。描かれているのは、自ら吊るされることを望んだ人物だ。
身動きも取れず、手も足も出ないという状況の中で、彼はなぜ穏やかな表情をしているのか。それは、サレンダーの境地に達しているからではないだろうか。状況をコントロールし、身動きをとろうともがけばもがくほど、その苦しみは増すだろう。
私たちの人生には、不条理なことも起こってくる。絶望的な状況の時、抗うのをやめて降伏すると、不思議とこれまで見えなかった風景が見えてくるものだ。このカードでは、男性は完全に逆さまに吊るされており、これまでと全く違った世界が見えているに違いない。
12番の吊るし人は辱めや刑罰ではなく、秘教的な通過儀礼を表すカードであると考えられる。彼の頭の光輪や、吊るしている木のタウ十字は、悟りへの到達や真実の光を表している。背景の木の茂りは、この男性の霊的進化が木々の芽吹きを促進するほどのものであることを示唆するとも言われている。
「オーディン」とはもともとは、北欧神話の創造神の名であったらしい。自らの目や命すら差し出したオーディンは、すさまじい霊的な成長を遂げ、その功績から創造神の名を戴いたのだという。
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