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【掌編】メタセコイアの雨が降る

川沿いの遊歩道を歩いていくと、公園に抜ける。

川といっても、コンクリートで固定された用水路のような流れだ。

水かさの増した川。

公園の入り口の小さな水門。

小さな橋を渡ると、緑地が広がる。

雨上がりの公園はひっそりとしていた。

土はまだ濡れていて、地面に落ちた広葉樹の葉が湿り気を帯びて重なり合っている。

公園の真ん中には細長い池があり、池を取り囲むようにして木立が生い茂っている。

頭上の木の枝からも、遠くの茂みからも鳥の声がする。

湿った空気をつんざくように、鳥の声が甲高く鋭く響く。

公園にはほかに人の気配はなく、遊歩道を歩く自分の足音が大きく感じられた。

湿った土の匂い。

植物たちの静かな息遣いが感じられそうな木立を歩いていると、かすかな針葉樹の香りがする。

自然と深く呼吸をする。

少し遠回りだけれど、わざと公園の中の道を通って帰ることにした。

この木々の間を抜けると、また日常の時間の流れに歩調を合わせなくてはならない。

息苦しかった。

呼吸をしたかったのだ、こんな風に深く。

少しでもこの場所を感じていたくて、迂回路を選んだ。

些細な些細な、モラトリアム。

もうちょっとこのままで。

願いもむなしく、やがて出口が近づいてくる。

ちょっと憂鬱な気持ちで歩を進める。

もうすぐ公園の木々に別れを告げ、住宅街の舗装道に戻らなければ。

出口の近くに立派なメタセコイアの木があった。

メタセコイアは針のような細かい葉を降らせていた。

まるで銀色の雨に打たれるように、私の肩に頬に小さな葉が当たる。

存在感のある感触。

メタセコイアの雨は私を打つ。

肌を優しく打つ感触がおもしろくて、しばし立ち止まる。

メタセコイアは、まるで励ますようにいくつもいくつも細かい葉を降らせた。

……ありがとう、メタセコイア。

なんだか不思議と元気が出て、次の一歩を踏み出すことができそうな気がする。

私はメタセコイアに背を向けて、濡れたアスファルトの地面に踏み出していく。

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