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『銃・病原菌・鉄』(ジャレド・ダイアモンド 著 倉骨彰 訳 草思社文庫 2012)読書感想文

インカ帝国最後の皇帝・アタワルパはスペインからの征服者によって捕らわれ、殺害された。この大事件によって、南アメリカ大陸で栄えたインカ帝国は15世紀に滅びた。

人類史におけるヨーロッパ人の台頭には目を見張るものがある。この歴史は、今の世界の勢力図とも地続きであるように感じる。しかし、逆の可能性はあり得なかったのだろうか。アタワルパがヨーロッパに上陸し、ユーラシア大陸へ勢力を拡大することはできなかったのだろうか。

本書『銃・病原菌・鉄』に通底する問いは素朴で壮大だ。それは「なぜ、人類社会の歴史は、それぞれの大陸によってかくも異なる経路をたどって発展したのだろうか?(p27)」という問いである。本書では、この問いへの解を、生理学者・進化生物学者・生物地理学者である著者の膨大な知見ともに探っていく。

著者は本書の結論を「歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない(p45)」としている。この「環境の差異」こそが、冒頭の問いを説明しうる「究極の要因」としている。

つまるところ、「環境の差異」は大陸が東西に延びているか、南北に延びているか、である。そして、「環境の差異」によって、ヨーロッパ人は他の大陸よりも早く、銃や病原菌や鉄を手に入れ、台頭していったのだと言う。

著者の主張は以下のような図でまとめられている。

本書の大部分(3/4くらい)は、上記の主張(図)を説明するための事例や考察が述べられている。上下巻はそれぞれ400ページほどに及ぶ。しかし、著者の問題意識や主張は一貫しているので、混乱せずに読み通せる。ただし、いかんせん800ページにもおよび本なので、体力はいる。

また、著者の語るストーリーが大変魅力的で文体も読みやすいので、引き込まれてしまうのだが、ふと我に返ったときに、「どこまで著者の主張に肯首して良いものか」と不安にもなる。扱っている内容があまりにも壮大で広範なので、より理解を深めたい部分にはついては、他者による関連書籍を読んだ方が良いかもしれない。

とはいえ、現在に至る人類史の結果は人種などの「生物学的な差異」によるものではなく、それぞれの人類が偶然に得た「環境の差異」によるものである、という著者の主張には独自性があり、魅力的だ。私たちに、新しい人類史観を提示してくれる一冊である。

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