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短篇

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noteの企画に参加した作品をあつめました。 #シロクマ文芸部  さんは毎週お題が出るのがとっても楽しい。 ピリカさんの企画はnoterの憧れ。
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#SF小説が好き

プレコグ #シロクマ文芸部

 読む時間だ、という声とともに、耳障りな音を立てて格子のはまったドアが開く音がした。外界と隔絶され、拘束服を着た僕にとっては、ドアの向こうからやってくるものは空気すら新鮮だった。思わず勢いよく鼻から息を吸いこむ。口輪の嫌な匂いまで一緒に吸い込んでしまったが、それでも鮮度の高い空気は良かった。  係員に両脇を抱えられ、いつもの部屋に歩かされるが、目隠しをされているのでどこなのかわからない。おそらくは地下室。  部屋に入って座らされ、厳重に扉が閉まった後で目隠しが外されると、部

ポリポリ #シロクマ文芸部

 街区「自来也」は、この辺りでは最も治安の悪い地域だ。  当たり前だが通称だ。本来は「11街区」という至ってそっけない名称だが、暴力集団の溜まり場になっているところからその名がついた。  街は、中心から螺旋状に行政区が広がっている。昔々のトーキョーは23区だったらしいが、人口が減少し始めて何世代か後、行政区の仕切り直しをして、人々は小さな都市に固まって住むようになった。現在、23区は荒川を真ん中に千葉と埼玉に食い込むようにエリアを大きく北にずらし、パリに模して造り変えられた

神隠し #シロクマ文芸部

 銀河売りだよ銀河売り銀河はいらんかね。  店先で棒手振が声を張り上げたんでございます。へぇ、なんとも奇天烈な棒手振りでして、担いだ天秤棒なんか荷が入ってねぇんじゃねぇか、ってくらいに軽そうに右に左に揺れてるんで。身なりもそんじょそこらじゃ見ねぇ面妖な形だ。あっしはすぐに見抜いたんだ、こいつは怪しいもんにちげぇねぇ、御用だお縄だッてんですぐに番頭さんに言って番頭さんが小僧に親分さんを呼びに行かせたんで。はあ。あっしは職人でございやす。へぇ、そこの伊勢屋の三軒ばかり隣の小間物問