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いろんな人たちの能力で世界は回っているんだなぁ、と感じた話

少し可愛げのあるひょうきんな笑みを浮かべるそのおっちゃんの口にはポッカリと穴が空いていた。

朝8時、知らない番号から電話が来ていた。折り返すと、注文していた炭酸カルシウムの配達の電話だ。思っていたより早い時間に届けてくれるようだ。

さすがに農家絡みの仕事をしている人は、朝早くから仕事してくれる。関心しながら電話に答える。

「配達のものです。今、〇〇なんですけどぉ、場所がわからなくてねぇ」

配達は畑に直送でお願いしている。確かに、僕らの畑は少し奥の方で分かりにくい場所なのかもしれない。ただ、そんなこともあろうかとグーグルマップでピンを打った地図を事前にバッチリ送っているはずだ。

「地図、見てますか?」
「地図にのってないんだよねぇ」

うーん、グーグルマップで見れば、わかんないはず無いんだけどなぁ。要領を得ない、電話のやり取りにすこしうんざりしながら続ける。

「そしたら、△△わかります?そこから左に入って、ずっと行ったところの✗✗が植わっている畑の手前の畑においてください。」
「△△ねぇ。それで、置き場所はどうしますぅ?」

いやいや、置き場所もちゃんと示した地図を送ってるはずなんだけどなぁ。あぁ、これは僕からの地図受け取ってないんだなぁ。はぁ、この後予定があるんだけどなぁ。僕は、何回除草しても数週間後には元気に生えてくる雑草を見たときくらいうんざりした気分で応対を続ける。

「指定した地図もらってないんですか?」
「もらってないなぁ」
「そしたら、畑についたらまた電話ください」

一度電話を切り、別件の予定の準備をする。
しばらくして、また電話が来る。

「なんかねぇ、真っすぐ行ったら丁字路について、そこに農家さんの家があるんだよねぇ」
「・・・・。うーん、そうですかぁ。わかりました。一度、△△まで戻ってきてもらえます?案内しますよ」

仕方なく幸枝さんだけ予定の場所に先に行ってもらい、僕は配達の人と合流することにした。

△△に着き、待つ僕。カーラジオを聞きながらもう少し待つ僕。妻に、けっこう遅れそうと伝え待つ僕。
携帯に着信。

「今、〇〇なんだけどぉ」
「え?どこにいるんです?△△じゃなくて?」
「〇〇の近くの▲▲だよ。あれ、▲▲じゃない?」

どうやら、ドライバーのおっちゃんは微妙に違う場所に戻っているらしい。僕はどこかに引っ掛けて穴が空いてしまった袋からサラサラとこぼれる肥料を見つめている時のようにどっと疲れた気分で応対を続ける。

「そうですかぁ、〇〇の近くの▲▲ですね。そこに行くんで待っててください」

車を走らせながら、心を落ち着かせる。きっと、ドライバーさんも困ってるだろう。どこかで地図が止まってしまってるんだろう。怒らないように自分をなだめる。

▲▲につくと、巨大なトレーラーの運転席で困った様子で地図を見ているおっちゃん。あぁ、この人だな。

車を横につけて、降りる。おっちゃんも降りてくる。

「いやぁ、会社から言われたところと違うんじゃないかなぁ、と思うんだよねぇ」

ちょっとバツの悪そうな笑みを浮かべるおっちゃん。前歯がなくポッカリと穴が空いたような口が、妙に印象的だった。

おっちゃんの手に持っている地図を見ると、農道が全く描かれていない白地図。あぁ、これじゃぁたどり着けなくて、当然だよなぁ。おっちゃんも困ったことだろう。

「あぁ、これじゃあ分かんないですよね。そしたら先導するので付いてきてください」

僕は、なんだか穏やかな気分で、トレーラーを先導する。おっちゃんの表情がなんだか憎めない印象を与えたからだろうか?

畑まで先導して、荷物の置き場を指定する。おっちゃんは、上から見ているかのように上手にトレーラーを運転し、荷物を置く準備を始める。

なんだか、困ったおっちゃんだったけど、あんなに大きなトレーラーをいとも簡単に運転している。その姿を見て僕は、人それぞれいろんな能力を活かして、世界は回っているんだなぁ、と感じていた。

移住して北海道にきてから、それまでの僕の暮らしではなかなか会わなかったような人達と触れ合う機会に恵まれる。この年になってもいろいろな経験ができて、これはこれで悪くない人生だよなぁと思う。

それにしても、僕が送った地図はどこで止まっちゃったんだろうなぁ。

まあでも、酸性土壌を中和する大量の炭酸カルシウムは無事に届いたのだから、

まぁ、いいか。

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吉田拓実|さいこうファーム OKHOTSK BIHORO
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