吉田孝行作品『ある日のアルテ』が東京ドキュメンタリー映画祭2022に選出され新宿ケイズシネマで上映されます!
拙作『ある日のアルテ』が、東京ドキュメンタリー映画祭2022の短編部門に選出され、新宿ケイズシネマで上映されます。「短編8 アートのある暮らし」の1本として、12月15日(木)16時20分、12月21日(水)10時00分からのプログラムで上映されます。どうぞ宜しくお願い致します。
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『ある日のアルテ』(2022年/14分/HD/16:9/カラー)
かつて炭鉱で栄えた町の山の中にある閉校となった小学校の木造校舎。その一部は近年まで地元の幼稚園として利用されていた。この町で生まれ育った彫刻家を中心に閉校となった学校施設を芸術広場として再生する取り組みが行なわれている。自然と人と彫刻が融合した安らぎの空間。広場にある水路や池で水遊びをして過ごす子ども達のある夏の一日。
子どもとオブジェ(遊具)と建築物と自然――吉田の映画は、この4つの組み合わせから成り立っているが、この色気や香気は何なのだろう。それは映画を観る快楽の根源が、ドキュメンタリー的なもの――列車の到着やら背景で揺れる自然を愉しむこと――にあることを想起させる。そして、子どもが人類の中では最も自然に近いであろうこと。或いは子ども=絶え間なく運動する存在として、そして吉田の映画を対比で考えてみよう。『ぽんぽこマウンテン』では、まず子どもが楽しげに遊具で跳ねる姿を捉える。中盤以降は子どもは静止画でピン留めされ、だが歓声はそのまま聞こえる。観客は躍動感溢れる運動を目で楽しんだあと、その残像とも言える想像上の運動に身を委ねるのだ。吉田の映像作品の色気は二つの要素の間、その断絶にあると思われる。『タッチストーン』のカラーからモノクロに変わる瞬間。或いは『ある日のアルテ』の幾何学的なオブジェの周りを走り回る自然そのものの子どもたち。その意味で、アピチャッポン・ウィーラセタクンと比較するのも、あながち見当外れではないだろう。———夏目深雪(映画批評家)
レトロな館が佇む、都会のなかにある庭園と思しき場所に、大きな石のモニュメントが横たわる。画面の右奥から子供たちとその引率者の大人が少しずつ姿を現し、ひとりの子供がモニュメントによじ登る。これは『タッチストーン』の冒頭場面であるが、このショットに特徴的にみられるように、静かに風景を凝視し、そのなかの微細な運動を捉える厳密なショット構成は、ジェームス・ベニングの映画を想起させる。しかし、ベニングの映画では、人間と自然環境の間の、和解しがたい緊張関係が提示されるのに対して、吉田の映画では、人間と自然環境との共存が示唆されるのである。緑豊かな公園で、巨大なトランポリンで遊びに興じる子供たちの姿を映した『ぽんぽこマウンテン』は、飛び跳ねることと寝転ぶことといった静と動の活動の喜びが、静止画像と動画像の交錯により表現される。ここでは、遊具を介して、子供たちが全身の感覚をもって、外に広がる世界と関わる様子が描き出されるのである。このことは、安田侃のモニュメントを介して、石の触感を全身で感じ取ろうとする子供の動作をとらえた『タッチストーン』にも引き継がれていく。そして、『ある日のアルテ』では、広大な芝生に点在する、やはり安田侃の彫刻を介して、水や石の質感に触れる子供たちの様子が映されるのである。事物を介して、みずからを取り巻く自然の一部を触知しようとする一連の行動は、カメラを介して、身の回りの風景を再発見させる映画の可能性と繋がるといえるだろう。彫刻と映画は、人間と自然環境の間を取り結ぶ役割を担っているのである。そして、この三作品に共通して流れているのが、子供の時間であることも特筆に値する。それは、誰しもが経験したことのある、ひたすら無為でありながら、「いま」に満たされた充実した時間である。ただ、そこにいるだけでいい。または、『ある日のアルテ』の終盤のシークエンスのように、そこからいなくなったって構わない。この点において、吉田の映画は、一見何も起こらない風景のなかに持続的な美を見出すという、映画の原初的な輝きを呼び起こすものでもあるのだ。———東志保(映画研究者・大阪大学准教授)
【吉田孝行プロフィール】
1972年生まれ。映画美学校で学び、東京フィルメックスで働く。映画とアートの境界を問い直す実験的な映像作品を制作、これまで世界30か国以上の映画祭や展覧会で作品を発表している。フィリピン南部ミンダナオ島やイラク北部クルド自治区など、紛争地域を訪れ、現地の映画人との交流も行う。近作に『ぽんぽこマウンテン』(2016)、『タッチストーン』(2017)、『アルテの夏』(2019)、『モエレの春』(2019)など。アジア各地の映像作家がコロナ禍の日々をテーマに撮り下ろしたオムニバス映画『エイジ・オブ・ブライト』(2021)に日本から唯一の作家として参加した。共著に『アメリカン・アヴァンガルド・ムーヴィ』(森話社 2016)、『躍動する東南アジア映画』(論創社 2019)など。
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