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映画レビュー『夏へのトンネル、さよならの出口』

珍しく邦画アニメーション映画です。2022年の作品ですね。

 設定としては「何でも叶う」「代償に自分の時間だけ進みが遅くなる」という古典的な、文字通り浦島的なものです。ここ自体は良くも悪くも捻りがないので、誰が見ても分かりやすいものになってていいと思います。変な設定付けまくって回収すらしないより数倍マシ。
 大事なのは「ウラシマトンネル」という場所の持つ性質が、塔野カオルと花城あんずの二人にどのような影響を与えて、どのように絡み合うかということであって、設定が陳腐であってもあまり問題はなさそうです。
 ただ二人がここまでお互いに想いを寄せるようになるような描写と、ウラシマトンネルの設定をもう少し絡められていたら見ている方も感情移入しやすいのかなと思ったり。特に塔野→花城の想いがここまで強い理由が微妙です。花城→塔野は漫画を褒めてもらって一歩踏み出すきっかけになったり、自分の境遇を理解してくれたりなど、13年待つ十分な理由になり得ますが、逆が成り立つきっかけは強く描かれていません。

 しかし、この映画はそういった陳腐な恋愛をテーマにしたものではなく、美しい映像を用いて多くを語らないテイストで高校生の恋情を描写しているため、そのあたりのバランスをとったのかなぁと思いました。

 結果として、シンプル設定かつ絞ったアトリビュート、多くを語らないスタイルなので超純粋なストレート作品に仕上がってます。映像はとても美しく、主人公二人の声も癖がなく、ストーリーの展開に関していえば無理な設定や描写が皆無なので、本当にミネラルウォーターを飲んでる感覚です。

 オチも「一人だけ置いていく」「失ったものが何かに気づいて、取り戻して帰ってくる」という本当にシンプルなものです。下書き無しで感想書いてますが考察すればするほどシンプルテイストですねこの映画。

 唯一明確に文句があるとすれば、ウラシマトンネル内のデザインですかね。なんかプロジェクションマッピングみたいなサイバー紅葉狩り感が出てて、その雰囲気が物語になんら関係性が無さすぎて、そこだけ纏まりがないと感じてしまいました。
 あと出会った日を再現するシーンも、向日葵じゃなくて何かとっかかりのあるものだったらさらに良かったかなと思いました。モチーフを多用する映画なので、そこのこだわりがもう少し出ても良いかな。

と、こんな感じで。それなりに楽しめましたが、「普段映画を見ない人には勧めやすい」くらいにとどまりました。

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