経営者を目指すなら経営企画を知ろう!③
もし『経営企画の仕事の経験がなかったら』、経営者としての職務は務まっただろうか?
1月13日に同タイトルで「経営企画の仕事紹介」シリーズ32回までのツイートを再構成しまとめ編として公開した。
今回は続編として33〜67回までのツイートについて加筆しながらまとめている。
今回もツイートが元になっているため、網羅性や順序を意識しておらず、内容にも偏りがあることを予めご容赦いただきたい。
どの会社でも、経営企画は要員数が少なく、その仕事を経験できる人は限られている。
だが、会社のマネジメントに関わる方、会社全体を視野に入れた視座の高いビジネスパーソンになるためには必須の仕事といえる。
経営企画という仕事がいかにビジネスパーソンとしての能力を高め、多くの経験ができる仕事であるかをお伝えしたい。
1.経営企画の役割
(1)実態は責任の重い黒子役
経営企画は一般的なそのイメージと違い、実は地味な仕事が多い。
とはいえ視座の高さや経営者の方針理解はやはり必要。
例えば部門への資料依頼ひとつでも問題点が可視化されるようフォーマットに知恵を絞る。フォーマットの完成に向けてはチームで何度もミーティング重ねることもある。
その資料ひとつが会社の将来を左右する責任を感じてその仕事に誇りを持っている。
(2)現経営企画部長への注文
現経営企画部長とサシで飲み、翌朝のお礼メールでしっかりと注文を付けた。
先が見通せない変化の大きな時代には「事務局型」でなく「参謀型」の経営企画が求められる。
(3)志とストーリーの時代
いまプロダクトやサービスには必須になってきているのが「志とストーリー」。それがデザイン、ブランドとなり発信されることでバリューがより昇華する。
このようにまだ自社内にない新しい思考/発想を示し、トップに新たな意識を植え付けていくのも経営企画の重要な役割。
また逆に、トップが偏った情報により流れを読み違えている場合にはそれを諫めることも必要である。
(4)潮目を読む
潮の流れのように刻々と移り変わるビジネス環境の変化を読み取ること。
ここで大事なことは潮目の変化を読み取ったら行動を大胆に変えることだ。傍観者や批評家ではなく、その観察眼に自信を持って舵を切るのも経営企画の重要な役割だ。
舵を切るためには潮目の変化と取るべき行動を説得力のある資料にまとめ社長まで説明することが必要。
(5)米の雇用統計が企業収益に影響
日本経済、特に為替や株価は米国の経済指標に敏感に反応する。
雇用状況がよくなれば、インフレ鈍化による利上げ抑制の期待が弱まり為替も変動する。
各企業想定の為替レートは安全サイドで見込んでいるとはいえ決算着地に向けて各企業の財務部門は敏感になるところ。
経営企画もこのような経済の変化にも関心を持つべき。
(6)経営環境変化のレポートを作成
目まぐるしく変わる、社会、経済、業界、新技術からトレンド情報に敏感になり、自社に関連する各項目を数行ずつにまとめてレポーティングする。
それにより、経営メンバーが最新の情報を常にキャッチでき、新しい動きにに興味を持つようになる。経営のリテラシー向上の一助になる。
2.経営戦略・ビジネスモデル
(1)利益の再投資スキーム
持続的成長の基本戦略は、経営資本の極大化と効率的配置による再投資スキームである。
M&Aやアライアンスを軸に据え効果出現の早期化、成長スピードを追求する。
それらの投資先は、人材、技術、あるいはCS向上など多様である。
事業領域拡大か、バリューチェーン取り込みか、差別化か、狙いを明確にし再投資先を吟味することで成長の波に乗る。
(2)イノベーション創出のエンジン役に
いま筆者自信が熱くなることは「知と知のコンビネーションによる価値創出」の対話だ。異業種の方との話の中から新しいアイデアが湧き出てくる。
一企業のたたき上げ経営企画マンが事業会社役員、海外での会社立ち上げの経験を経て辿り着い興味の行き先は、「人や社会をより良くし助けるための事業創造」というシンプルな領域だった。
経営企画部は考えるだけでなくイノベーション創出に向けて自らが積極的に行動する存在であってほしい。
(3)アライアンスを最大限に活用
日本はこれまで垂直統合によりサプライチェーンを自社グループの傘下に置き統制を図ってきた。
だが今は逆に水平統合によりリソースを外部調達し、自社は身軽になる戦略が増えてきている。
人材関連コストの増加への対応、高い専門性の要求、自社でリソースを揃える時間を省いた展開スピード、遺伝子の異なるアイデアとの相乗効果など、そのメリットは大きい。
サプライチェーンの転換は既存組織の反対も予想されるが、経営企画が高い視座で推進の役割を担うべき仕事である。
(4)ビジネスモデルの寿命はより短く
米国のGAFAMの中でも大幅人員削減策が発表され業績の厳しい状況が伺える。
一般的にビジネスモデルの寿命は20年といわれるが実態はもっと短くなっているのではないか。
もはや「導入期⇒成長期⇒成熟期⇒衰退期」という定説は通用しないのではと感じる。
成長が緩やかになると成熟期を経ることなく一気に衰退の道をたどるのではないか?だとすれば持続的成長こそが企業の存続条件となる。
もはや安寧とした成熟期や緩やかな衰退期といった呑気なことは言っていられない時代になった。
そんな社会の動きに敏感な視点を持ち自社の戦略を考えるのも経営企画の役割。
(5)事業の10-100は経営企画の役割大
ある社長が「自分は0-1や1-10は得意だが10-100は向いてない」と言った。
経営者にはいくつかのタイプがあるが、その人は最初の作り込みと成長が得意であったのだろう。
きっと、成長の仕組み化と経営体制の強化には興味がなかったのかと想像する。
経営企画の機能があれば、その部分の絵を描き実行できたはず。
結局その社長は会社を売却してしまった。
仮に最初からM&Aによる出口を想定していたとしても、100まで成長させてからより高く売る選択肢があったはず。
(6)フレームワークはほどほどに!
経営企画の資料にはフレームワークがバリバリ使われているわけでもない。
多くの場合は仮説が先にあるため、その検証と説得力アップを狙いとしてフレームワークを用いることが多い。
ビジネスにおいて仮説を持たずにテーマに取り組むことはないと言ったほうがよい。
だが思考法の中にいくつかのフレームワークを持ち実用的に使えることが大事。
フレームワークを使うだけで答えは出てこない。
(7)M&Aの企業価値算定EV/EBITDA倍率
これマスターすれば非上場会社の企業価値がすぐに出せる。
ここでは簡易的に出せる方法を紹介する。
EBITDAはほぼ償却前営業利益と思ってよい。これに業種などによって違う倍率(5〜10倍)をかけて、預金を足し負債を引いた数字。
この倍率は1年間の償却前営業利益の何倍が企業価値として妥当かという観点から、類似する業種・会社の率を準用するのが一般的。
償却前営業利益は事業計画の将来値の一定期間の平均値を使う。
3.組織・企業風土
(1)人的資本経営に必要な組織改革
常に自分事として何が出来るか考え大胆な行動をする人財により、企業価値向上を図るのが人的資本経営。
人も経営資本の重要な要素だから大事にしましょうという柔らかな話ではない。
投下資本にはリターンが期待されることは人的資本でも同じであるため、そこにはコミットメントが伴う。
これを成功させるためには組織全体の改革を見据えた「発想と行動の転換」が必要だ。
(2)組織パフォーマンスを高める方法
個が生きて初めて組織が生きる。
人事は個が生きる仕掛けを作る。
その上で「個の役割」と「個性」が組織に「隙間なくはまる」ことが理想。
しかし人財確保が難しい現状では採用の比重が高くならざるを得ない。
まずは人が集まる工夫をすべき。
(3)組織は具体的業務を定めながら検討する
①組織機構 組織の構成を組織図で表す
②職務分掌 主要業務範囲を決める
③職位 役職の定め
④職務権限 各役職の権限の定め
組織は役割を明確化し、専門性を高めかつ効率的な事業運営を目的に作るが①と②、③と④をそれぞれセットで考える。より具体的に作り込み実態を反映し改善を明確に入れ込んでいく。
(4)企業風土改革は会社の空気感を変える工夫
風土改革というと難しい道のりを想像するが、社員が活発になり、会話が増えその結果新しい商品サービスにつながることがゴールである。
言葉より行動が変わる具体的な工夫が効果的。
例えばオフィスレイアウトひとつで経営者との距離が縮まり一体感が高まる。
(5)年功序列の人事制度は至急見直しを
いま日本企業はキャリアデザインを基にスキル向上と配置転換による賃金アップが求められている。そこでは年功序列を排除する人事制度改革は必須。
この社会の急速な変化に敏感に対応する旗振り役も経営企画の仕事。
(6)来期に向け目標設定のポイントを整理しておく
①各人の責任と自主性をベース
②だが遂行はチームや経営層の支援が必要
③行動レベル含め極力定量化し設定
④課題推進目標はステップ毎の詳細な期限が重要
⑤④の課題は定量的目標の達成に必要な打ち手であること
これらを事前議論して方針を決める。
4.計画・予算
(1)各組織の年度活動計画作ってますか?
会社の年度計画を各組織にブレークダウンし、より具体的な各部門の活動計画にする。
さらにこれを個人まで落とし込むことで、会社→組織→個人の目標が一体となる。
3月決算の会社は3末までに行うことでスタートダッシュが可能となる。
(2)各部門責任者の正念場
会社の年度計画達成のためにはより具体的なアクションプランを作成する。定量的目標を中心とし、達成への定性的課題も重要だ。
定性的課題とは数字を達成する前提となる商品、体制、品質などを整備向上させることである。この計画を会議で議論することで精緻化、全体整合、コミット強化を図る。
(3)2023年度予算が未作成の会社は必見
予算策定の方式3種
①トップダウン型 役員や経営企画が作成。現場の理解得られず非現実的
②ボトムアップ型 事業部門が作成。ストレッチが甘く低成長
③ハイブリッド型 トップ承認の編成方針をもとに各部作成。上下の調整がカギだが現実的
③のハイブリッド型が適しているが、事業部門に自ら作成した意識を持たせ納得性を高めることが肝要。
(4)年が明けたら3月決算のまでの見通しを作る
年が明けると、「あっという間に春が訪れ年度末です。現状の立ち位置に応じてタスクを調整しゴールの再設定含め着地すべき地点を明確にし、勢いをつけてやり切っていきましょう!」と経営企画の頃メンバーに話していた。
(5)業績のV時回復を狙い予算に集中
決算前2か月の会社は来期に向けた予算の精度が業績向上のキモ。
・成り行き数値をつかむ(現状のトレンドベースの数値)
・目標値とのギャップを埋める策を検討
・ロードマップへの落とし込みスケジュールをイメージ化
・進捗を管理するKPI設定(マネジメント可能な目標を設定する)
・動き出しの体制作り(目標への体制を極力早く整える)
キーマンの巻き込みがポイント!
現状のトレンドとは言え、これを経営企画が部門としっかり協議し水準をストレッチさせることが重要。ここが低すぎると結果的に努力目標ばかりが増える。
(6)計画と決算の言葉の違いに注意
経営計画をもとに年度計画が作られるが、ここで「経営企画が作る戦略課題が財務部門が作る決算の資料に記載がない」場合、年度計画と決算で課題が共通化できておらずその課題は宙に浮いた状態にあるといえる。
これは多くの場合、戦略が推進不足で実行段階に至っていないためだ。
そうなる前に戦略具体化を進めるのが経営企画の役割。
(7)投資評価が重要
企業は何にお金を使うことが成長に効果的かの検証が必要。
DCF法ではNPVやIRRが主流だが他にも重要なことがある。
例えば不動産投資の場合、対象物件の用途/立地/築年/規模など収益性/リスク回避の観点から独自の基準決めが必要となる。
それぞれの事業に応じた投資基準を定めてリスク低減と意思決定の早期化を図る。
5.M&A
(1)M&Aも縁しだい
株主は超一流、対象会社も地域戦略的に補完できる優良案件だった。
先方も好感触で進んだがタイミング悪く直前で当社サイドに問題が発生したため先方に迷惑をかけないよう辞退した。
これを話す時はさすがに辛いものがあった。
M&Aも人との出会いと同じで縁があるかどうかが大きいと感じた瞬間。
(2)M&Aのシナジーは実現できるか?
経験からいうと難しいケースが多いと言わざるを得ない。もちろん企画時にはシナジーを狙い買収後は実現を図る。
だが多くの場合デューデリジェンスでは見えないマイナス材料で消えてしまう。
さらに競争のある買収では想定の計画もストレッチが強くなり上ずりやすい。
そのためシナジーを当てにした意思決定は危険。不確定要素のバッファーを見込み余裕も含めた計画にすることが重要。
(3)M&Aは目的がブレないことが重要
その戦略は、ライバルの買収によるマーケットシェア確保、商品の拡充、新規事業獲得、新技術の獲得、人材確保などさまざまだが押さえる点は次の3つ。
①企画段階で目的を固めること
②DD等で目的に整合しないと判明した場合は検討を振出しに戻す
③買収後も目的がブレないよう予定した効果を早期に発現する
効果の早期発現ができす当初目的が崩れてしまった経験がある。
6.会議
(1)経営会議を生産的な議論の場に
良くない会議は報告の後、社長が一人で話して進行していく。これは形骸化した会議の象徴的な光景。
それを回避するには口火を切るダイレクタークラスを決めておく。それによって他のメンバーも意見が言いやすくなる。または進行役である経営企画部長がしかるべき人に発現を促す。
本来は自発的に議論すべきことは言うまでもない。
(2)生きた会議にするマル秘ルール
・会社の未来しか語ってはいけない会議にする
・自由闊達な意見交換が行われるまでトップは発言禁止
・業績の悪い部門ほど多く発言する
・他部門の改善点だけ発言する
・創造的案が出るまで帰れま10
会議こそ工夫して真剣勝負の場に!
(3)課題推進のためステータス把握の会議を実施!
「親会」という言葉は聞いたことがあるだろうか。
重要タスク、プロジェクトチームでの課題については『各メンバーの推進を促す目的』で進捗のステータスを報告する会議を定期的に設定する。
ここにトップが出席することでより強力な推進が図られる。トップの前でやってませんとは言えないためメンバーの本気度が変わる。
このトップや上役が出る会議を「親会」といい、実務者の定例会議とは別に設定する。
7.その他の業務
(1)経営企画に求められる財務知識は?
財務諸表を読む、分析する力が必要となる。だがそれは「財務諸表と経営の状態を関連付け説明できる能力」といえる。
数字の変化の要因とそれが事業上の問題を意味するのか。将来にどのような影響があるのかを考えることである。
簿記2級を取得していれば基礎知識に困ることはないであろう。減損会計、引当金、のれん、税効果会計などは個別に知識を得ることで補える。
(2)法務知識は必要か?
当然必要なのだがだが法務チェックとは違うので、経営や自社の事業に影響する法律に絞って効率よく押さえる。会社法、労基法など経営上の大きな問題につながる法律を学習しておく。
法律は事業を守る面と規制する両面がある。従って新たな事業の法的問題、既存事業に関連する法改正については要注意。これを怠ると知らぬ間に法律に反したビジネスを行うことになる。コンプライアンスは企業経営の前提条件である。
(3)現場行ってますか?
優秀な経営者は最前線によく足を運ぶ。経営企画も現場に出向き問題点を探す。現場の社員から話を聞き、自分の目で見て、困っていることを含め現状を把握する。
もう一つはトップの方針をわかりやすく伝える役割がある。現場の社員には十分に伝わらず自分ごととして認識していないことがある。
現場視察力は将来経営の立場になったときに生きる。
(4)広報のコミュニケーション力の凄さ
彼ら広報の勲章は日経本紙に見出し付きで記事化されること。これは大きな広告的価値をもたらすと同時に広報マンとして誇るべき実績になる。だがそれはマスコミとの関係づくりが大きく影響する過酷な営業の世界でもある。
(5)時にはお客様との触れ合いで直接声を聞く!
新企業広告の確認にある駅のホームに行った時、足の不自由な高齢のご婦人がいたので駅員室に伝えホームへ戻ってお話をした。
それは偶然当社の広告の前。深々と頭を下げられた後、この広告を出した会社の者と話すと、「すごく鮮やかな色で何の広告なんだろうと不思議でした。目を引いて良いですね!」と急にハリのある声で感想を頂いた。
企画段階からの「何だろう?」と思わせる狙い通りの反応に嬉しかった。駅員が車椅子を持って来るまでの数分間はご婦人との広告談笑タイムとなった。私が去る時には何度も頭を下げていたがお礼を言うべきは私の方だった。
今回の広告戦略が正しかったことを生の声で聞くことができた。たった一人からの感想だが広報も制作会社のメンバーも大きな自信になった。
経営企画でもお客様との触れ合いで「心あたたまる」瞬間に遭遇できる。
まとめ
経営企画は社長の部下であるが言うことを聞いるだけではだめだ。時には社長を諫めることも経営企画の重要な役割。それによって社長との関係が一時的に悪くなったとしても会社を思っての言動はいつか理解される時が来る。社内で悪者になることを恐れず言動を貫く必要がある。
トップ全員がそうではないが、むしろ「言いにくいが言うべきこと」を言わない経営企画は評価されない。
そして、常に自主的に社会の動き、他社の動きに敏感になり、自社への影響や新たな可能性を考え続ける。
これに対して、部門から非現実的なことを言っていると批判されることもある。それでも自分の観察眼と将来予想に自信を持ち、方向性と施策を訴え続けることが会社を持続的な成長に導き、リスク回避に向かうことになる。
これらの視座の高い経営企画の仕事の経験はビジネスパーソンとしてはハイレベルなものであり、それをやり抜くことができればさまざまな仕事、役職で成功できる。
そして将来の経営者としての実力をつける近道でもある。
最後までお読みいただき感謝を申し上げます。
ご興味のある方はぜひツイッターもご覧いただけると嬉しいです。
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