406. 私はSRSの有無で性犯罪の絶対数が変わるとは考えませんが、性犯罪者を何の性別として報道・裁判・受刑などを行うかには混乱が大きいと思います。また、「身体への強度の侵襲」と良く表現されますが、胸の手術もホルモン投与も「強度の侵襲」なので、精巣除去を否定的に扱うなら他も否定すべきです。
今回はX(旧ツイッター)でいただいていた意見(403の記事に対する意見)をとりあげます。レスポンスに長い間気づかす、失礼いたしました。
まず、最初のご意見について考えてみます。
性犯罪者についてですが、2020年度の性犯罪の統計があります:
いただいたご意見は、トランスジェンダーの手術要件が撤廃されると、はっきりと男性が加害者で女性が被害者なのか、報道・裁判・受刑などで混乱が起こるのではないかというものでした。
これについては、性別適合手術の要件撤廃が実際になされていない現状では推測でしかお話しすることはできませんが、1つの法律ができれば、それにともなって、関連する法律や取り決めもかわると想像されます。
性犯罪者の報道・裁判・受刑に混乱をもたらすかどうかは、実際に法律や取り決め、その他の制度の実装や実践の仕方によると考えられます。法的文書やガイドラインで明確な基準を設定することで、混乱は最小限に留められると考えられます。
もう1つの「精巣除去」(トランス女性の場合)が「身体への強度の侵襲」となるのかどうかですが、これはなにをもって「強度の侵襲」とみなすかの判断によると考えられます。
前回引用した手術要件について判断した最高裁の判例(2019年1月23日)では、裁判官の補足意見として次のように述べられています:
私が自分の判断で「精巣除去が身体への強度の侵襲」だと判断しているのではありません。最高裁判所の判断です。ここで注意していただきたいのは、最高裁のこの補足意見の中でも、外科手術一般に言えることとして、「生命ないし身体に対する危険を伴う」とされている点です。
もちろん、乳房の切除手術もこの基準では危険であると考えられます。
このような外科手術と「ホルモン治療」(内科受診、内服薬投与)を同一に扱ってよいのかという問題があります。この判断は慎重になされるべきだと思います。医師の判断、当事者の生活の質という面からの判断、(肉体的)外形の変化がもたらす苦痛、それとホルモン内服によるたとえば精巣の機能の低下、FtMであれば体毛の増加、声変わりなどをどのような「物差し」で測って「強度の侵襲」と言えるのか、意見が分かれるところだと思います。
何よりも大切なのは、トランスジェンダー当事者がどのように感じるかということだと思います。
トランスジェンダー以外の人たちが、「手術要件を撤廃したら社会が混乱する!」と叫ぶよりも、わたくしはトランスジェンダーの方々が暮らしやすく自分を自分として気兼ねなく表現でき、それを受容する社会をどう作っていくのかということのほうが重要に思われます。
人は生きていれば誰もが誰かに多かれ少なかれ「迷惑」をかけて生きています。「~を認めたらAの権利が侵害される!」というふうに、自分の側に対する「(他者からの)迷惑」ばかりを考えるのではなく、お互いがお互いに相手を許しながら(=寛容)生きていければいいのではないかと思います(もちろん理想としてですが)。
仏典に次のようにあります:
というわけで、「胸の手術もホルモン投与も「強度の侵襲」なので、精巣除去を否定的に扱うなら他も否定すべき」ということは一概には言えないと私は考えます。
みなさんはどうお考えになりますか?
参考資料
令和2年(2020年)9月23日 日 本 学 術 会 議 法学委員会 社会と教育におけるLGBTIの権利保障分科会 「提 言 性的マイノリティの権利保障をめざして(Ⅱ) ―トランスジェンダーの尊厳を保障するための 法整備に向けてー」