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【運動療法×機能解剖】骨の捻転異常が股関節治療に与える影響〜個別化アプローチの重要性〜
股関節を曲げた時に痛みがある方がいますよね。
股関節のインピンジメント症候群の症状としては曲げた時に痛みが生じる事があります。
なぜインピンジメントが生じる事になったのでしょうか?
それは骨の形態が関連しているかもしれません。
では、どの様な形態でしょうか?
今回紹介する研究は股関節疾患と骨形態の関連についてです。
この研究を読むと、股関節疾患である症候性インピンジメント症候群にみられる特徴が分かります。
また、そのような方への治療戦略についても考えていきたいと思います。
タイトル
“Over one third of patients with symptomatic femoroacetabular impingement display femoral or acetabular version abnormalities”
日本語訳
「症候性FAI患者の3分の1以上が大腿骨または寛骨臼の捻転異常を示す」
となります。
こちらが今回の研究の要点です。
【研究要点】
☑︎ FAI患者の捻転異常率: 51%が異常な大腿骨捻転、31%が異常な寛骨臼捻転を示した。
☑︎ 大腿骨捻転の影響: 症候性FAI患者では41.9%が10°未満の大腿骨後捻、9.2%が25°以上の大腿骨前捻を示した。
☑︎ 臨床的意義: これらの捻転異常は関節鏡手術の結果に影響を与える可能性があり、術前評価の重要性が示唆される。
では、要約です。
1.【研究の目的】
本研究は、症候性FAI患者における寛骨臼、大腿骨、および脛骨の捻転異常の関係を明らかにすることを目的とした。
2.【対象と方法】
• 対象:
症候性FAI患者を対象とした43件の研究(計8,861股関節)をシステマティックレビュー
• 方法:
• PRISMAガイドラインに従い、EMBASE、MEDLINE、PubMed、Cochraneデータベースを検索
• MINORS基準を用いて研究の質とバイアスリスクを評価
• 大腿骨・寛骨臼の捻転値をフォレストプロットで可視化し、異常率を計算
3.【主な結果】
1. 大腿骨捻転の異常率
• 症候性FAI患者の 51.2% が異常な大腿骨捻転を示した。
• 41.9%が10°未満(後捻)、9.2%が25°以上(前捻) であった。
• 特にミックスタイプFAIでは57.1%が異常を示した。
2. 寛骨臼捻転の異常率
• 症候性FAI患者の 31.4% が異常な寛骨臼捻転を示した。
• 18.9%が10°未満(後捻)、12.6%が25°以上(前捻) であった。
• ピンサー型FAIでは36.2%が異常を示した。
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3. FAIタイプ別の特徴
• Cam型FAI では大腿骨の後捻が多い傾向
• ピンサー型FAI では寛骨臼の前捻が多い傾向
4.【考察】
• FAIの病態理解: FAI患者の半数以上が大腿骨または寛骨臼の捻転異常を有することが明らかになった。
• 術前評価の重要性: CTやMRIを用いた詳細な術前評価により、捻転異常を考慮した治療計画が必要となる。
• 治療方針の影響:
• 大腿骨後捻が強い場合 → 股関節の内旋可動域が制限され、FAIの手術結果に影響を与える可能性がある。
• 寛骨臼後捻が強い場合 → インピンジメントのリスクが高まり、手術適応を慎重に検討すべき。
• 大腿骨・寛骨臼の捻転を包括的に評価することで、より個別化された治療が可能になる。
5.【臨床的意義】
FAI患者の術前評価において、大腿骨および寛骨臼の捻転異常のスクリーニングが重要である。
• 大腿骨後捻が強い場合 → 股関節の内旋可動域が制限され、FAIの手術結果に影響を与える可能性がある。
• 寛骨臼後捻が強い場合 → インピンジメントのリスクが高まり、手術適応を慎重に検討すべき。
• FAIのサブタイプ別評価が必要 → Cam型では大腿骨捻転、ピンサー型では寛骨臼捻転に注意。
6.【まとめ】
いかがでしたか?
大腿骨や臼蓋の捻転異常に関しては手術が検討される事もあります。
手術後のリハビリは、捻転異常があった時の運動パターンを修正しつつ関節の安定性を高める工夫が必要になりますね。
また、臼蓋の捻転がある事がインピンジメントを生じやすいという点は学びになりました。
そして、Cam型では大腿骨捻転、ピンサー型では寛骨臼捻転の可能性があるというのも新たな学びです。
その点を考慮しながら臨床評価を行い、適切な治療を選択していきたいですね。
以下にリハビリ戦略についての考えをまとめました。
リハビリ方法を骨形態を考慮し検討していますので宜しければ引き続きどうぞ。
7.【リハビリ戦略】
今回の研究結果を リハビリ・運動療法・トレーニング に応用する場合、以下の点が考えられます。
I. [股関節の捻転異常を考慮した運動療法の選択]
→ 症候性FAI患者の約50%が大腿骨捻転異常、30%が寛骨臼捻転異常を有するため、運動選択時に考慮が必要。
✅ 大腿骨後捻が強い場合(10°未満)
→ 股関節の内旋可動域が低下しやすい。
→ 運動療法のポイント:
• 股関節内旋ストレッチ(後捻が強いと内旋可動域が制限されやすい)
• 中殿筋・小殿筋の強化(特に後部線維)
• 股関節周囲筋の協調性向上(外旋筋の過剰使用を防ぐ)
• スクワット動作の再教育(つま先をやや外向きにし、代償を抑える)
✅ 大腿骨前捻が強い場合(25°以上)
→ 股関節の外旋可動域が低下しやすく、膝が内側に入りやすい。
→ 運動療法のポイント:
• 股関節外旋ストレッチ(前捻が強いと外旋制限が生じやすい)
• 大殿筋・深層外旋筋群の強化(前捻が強いと外旋筋の機能低下が起こる)
• ニーインを防ぐエクササイズ(クラムシェル・サイドステップ)
• ジャンプや着地動作の再教育(股関節外旋を意識させる)
✅ 寛骨臼後捻が強い場合(10°未満)
→ 股関節の外旋・伸展可動域が制限されやすい。
→ 運動療法のポイント:
• 股関節外旋ストレッチ(後捻が強いと外旋可動域が低下する)
• 骨盤前傾を伴うスクワット・デッドリフトのフォーム修正
✅ 寛骨臼前捻が強い場合(25°以上)
→ インピンジメントリスクが高まり、前方への動きが制限されやすい。
→ 運動療法のポイント:
• 前方インピンジメントを避けるフォーム指導(股関節屈曲時の姿勢に注意)
• 体幹・股関節の連動トレーニング(骨盤・脊柱の適切なアライメントを維持)
II. [関節可動域制限に基づくリハビリ戦略]
• FAI患者の約半数に股関節の捻転異常があるため、可動域制限の原因を評価することが重要。
•ROMエクササイズの工夫:
• 後捻が強い患者 → 内旋可動域の改善を重視
• 前捻が強い患者 → 外旋可動域の改善を重視
具体的にはクラムシェルを行う事や、その姿勢で踵を持ち上げらように股関節内旋運動を行う。
その他、簡易的なものとして
•背臥位で股関節の開排運動(外旋)とその逆(内旋)
•座位での股関節内旋、外旋
III. [スポーツ・競技レベルでの動作修正]
• スクワット・ランジ時の膝の向きを調整(前捻が強い場合はニーインしやすいため、適切なフォーム指導)
• ダッシュ・ジャンプ動作の修正(捻転異常がある場合、股関節の動きに偏りが出やすい)
• コンタクトスポーツでは股関節の安定性強化が重要(捻転異常により可動域が制限されると、怪我のリスクが増加)
Ⅳ. [臨床評価での活用]
• FAI患者のリハビリでは、X線・CT・MRIで捻転異常を評価し、それに基づいて運動療法を調整することが重要。
• FAIの術後リハビリでは、過度な可動域制限を避けつつ、機能的な動作を取り戻すことを目指す。
Ⅴ.[まとめ]
今回の研究結果を踏まえると、FAI患者のリハビリ・トレーニングでは 「大腿骨・寛骨臼の捻転異常を考慮した運動療法」 を行うことが重要だと理解できたと思います。
特に、大腿骨後捻が強い場合は内旋可動域の改善、大腿骨前捻が強い場合は外旋可動域の改善を意識する 必要がありますね。
このような視点を持つことで、FAI患者の疼痛軽減・動作改善・スポーツ復帰の質の向上 につなげることができると考えられるでしょう。
以上で紹介を終わります。
ここまでご覧頂きありがとうございました。
8.【参考文献】
Arshad Z, Maughan HD, Kumar KHS, Pettit M, Arora A, Khanduja V. Over one third of patients with symptomatic femoroacetabular impingement display femoral or acetabular version abnormalities. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2021;29:2825–2836. https://doi.org/10.1007/s00167-021-06643-3
また学びになる研究がありましたら紹介します。よろしくお願いします。
ー股関節の安定化に関してはこちらー
ー大腿骨後捻に関してはこちらー
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