「ダークサイド・スキル」を読んで
2年ほど前に購入し読んだもの。転職を機に、自分自身が置かれている組織や文化が大きく変わったこともあり、再読した。
ダークと言っても人心掌握や政治的な立ち回りといったいやらしいスキルではなく、かなり真っ当なマネジメントスキルに関するもの。
再読なのでそこまで目新しく感じることはないものの、改めて自分の「まだ足りないところ」を再認識させてもらった。
自分自身、比較的上司をうまく動かすスキルや、部下の多様な意見を引き出すスキルは持ち合わせていると自負している。一方でやや八方美人すぎるきらいがあり、本書で書かれているような、「堂々と嫌われろ」と言った行動が不足していると感じた。
現時点では、そこまで大きな弊害に悩むことはなかったが、率いる部下の数が多くなれば、部下に舐められ過ぎてしまうことで自分の首を絞めることにもなるかもしれない。
今後は、硬軟両方を使い分けるコミュニケーションスキルを身につけ、より良いチームづくりに邁進していきたい。
以下、読書メモである。
1.思うように上司を操れ
<心構え>
• トップに意思決定の材料を渡す際にトップと自身の情報の非対称性を利用すること。
• 自部門最適の考えは捨てること。また、部門トップは自部門のことしか考えていない可能性を見抜くこと。
<動き>
• バッドニュースは早めに伝える、ただしオフィシャルな場ではなく、こっそりささやく。
• 表向きはファイティングポーズを維持しつつ、裏では先を見越したネゴをする。
2.KYな奴を優先しろ
• 「今日の自分の仕事はPLのどこに結びついている?」常に組織にとっての付加価値が提供できているかを考えること。
• あうんの呼吸、すり合わせの文化、同質性の高い組織はコミュニケーションコストが少なくて済む一方で、新しい発想は生まれにくい。
• 組織は放っておくと同質性が高くなる、戻ろうとする圧力が高まっていく。それを認識しながら、いかに組織の多様性を維持するか考えるのがミドルの役割。
• 多様性は外国人や女性といった目に見える多様性だけでなく、新卒プロパーのような人間からも堂々と他とは違った意見を引き出せるか、にある。
• 上司として一番楽なのは、「先に答えを言うこと」。しかしそれをしてしまうと、部下はその答えに近い回答しか考えなくなってしまう。
• 部下にKYな人間を保持し続けるとともに、時に自分自身がKYになることも必要。ただし、あらかじめ上司にKYな意見をささやいておくなど、調整・根回し・段取りが必要。
3.「使える奴」を手なづけろ
• 借り物競走。要するに、いかに他人のスキルをパクってチームを作るかがミドルの大事なスキル。
• 変なプライドは捨てて、「I don’t know」をはっきり言える、そして社内の専門家に頼れることが大事。
• ただし、「顧客」といった軸はブラさないこと。
• まずは自分なりに会社内の神経回路を張り巡らし、太い人脈を張り巡らせること。
• そして、自分に足りないものを冷静に棚卸すること。
• 自分がトップの神経回路の中で、「使える奴」になっているか?を考えること。自分自身が手駒にできる人がどれくらいいるか、を考えること。
• メンターは社外に求めた方が、利害関係がないのでしっかりと話をしてくれる。
4.堂々と嫌われろ
• 大抵の意思決定は、情報が不完全な中で行わなければならない。(せいぜい6〜7割くらいの情報)
• 現場は戦いの最中にいるため、目線は短期軸。一方でマネジメントは中長期に物事を考えるため、その時間軸の差があることを意識すること。時にその時間軸の違いで、現場から嫌われる意思決定をしなければならない。
• あちらを立てればこちらが立たない、ということは起こる。皆の人気取りのご機嫌とりリーダーでは成り立たない。結果的に問題の先送りや全員のコンセンサスをとって落とし所を見つけるようでは良い意思決定ができないこともある。(親近感と敬意は両立しない)
• いい意味で現場がピリッとするような、畏敬の念を抱かせるリーダーが理想。人を「好き」という気持ちは相手の気持ちに依拠する要素が多いが、相手に恐れを感じさせるのは自分による要素が多く、こちらはコントロール可能。
• 状況に応じて、「叱咤激励」「ほめる」「理詰で議論」「押し切る」といったカードを使い分けられるリーダーが良い。
5.煩悩に溺れず、欲に溺れろ
• 自らの弱み、恐れと対峙すること。自分がどんなところが弱く、どんな場面で恐れを抱くのか、客観視すること。
• 本当に苦しかった時にこそ、自分の生き様が出る。
• 何かを成し遂げたい、という強い想いがあれば、出世欲や金銭欲といった些末なものは介在しなくなる。
• 自分の軸、価値観を見える化するため、自分の人生をしっかりと振り返る時間も必要。
• その価値観は、チームメンバーに共有しておくことが大事。同質化させるための強要はNGだが、共有しておくことで、メンバー一人ひとりのいざという時の判断材料となる。
• 自分が本当に成し遂げたいこと、を常に忘れないようにしておくこと。ちょっとした煩悩、誘惑に負けそうな時、その軸を思い出し、打ち勝つこと。
6.踏み絵から逃げるな
• 普段から自分の価値観や考えをメンバーに伝えている場合、その信念や価値観を試される瞬間が来た時、それから決して逃げてはいけない。ブレてはいけない。
• ただし、踏み絵を踏まずに堪えるためには、自分の「ここは負けない」というCanが必要。
• 時に自分の信念を曲げてでも、歯を食いしばって踏んでおく、ということも一つの決断。一番まずいのは、踏み絵そのものを見なかったことにすること。
• リーダーはリスクを負ってでも勝負しなければならない場面が来る。守り一辺倒で責任の所在を曖昧に承認するやり方では、リスク回避だけで進まない。
• 何かを変えた時、必ず反発や反動で一時的に業績が下がることがある。そこでも歯を食いしばって我慢できるかが、リーダーには大切。
7.部下に使われて、使いこなせ
• 有事の際にこそ、改革の扉は一瞬だけ開く。その一瞬を見逃さずに一気に改革を進めることが大切。その瞬発力を生むのが、普段からの草の根活動。
• 草の根活動で、普段から自分の考えを発信し、ここぞという時に一緒に立ち上がる仲間作りが大切。
酒場で上司や体制批判をしてスッキリ、ではなく、自分が置かれた状況を冷静に見つめて、なすべきことを普段から深く考えること。
• 部下に対して、正しい答えを伝えるのではなく、正しい質問をして気づかせることを心がける。また、部下が自分に対してネガティブフィードバックをしてくれる関係性を築く(ジョハリの窓を広げる)ことが大切。
• おべっかしか使わない部下しか持たない上司の組織は、レベルが低い。チームとして上司の能力を超えることはない。
• 自分の時間の7割を部下のために使うことが必要。
ダークサイド・スキルを磨くポイント
1.いつでも戦える態勢を整える
• 人は見たい現実しか見ない、なんとなく「この事業はもう終わりだ」と思っていても撤退の一声を出せない人間が多い。表立ってKYな意見を言って干されることへの恐怖心が強いのが日系企業。
• 先送りして良いことは何もない。「まだ」は「もう」だと思った方が良い。
• ミドルは部下のために時間の7割を使う。さらに会議などで立て込めば、自分の仕事ができる時間はかなり減る。それを意識して生産性を常に上げていかなければならない。
2.人を操る3つの力
• 表と裏を使い分ける「コミュニケーション力」
状況に合わせて、ロジカルと泣き落としの両方を使い分けることが必要。ロジックだけで納得を得られない場面も多くあるため、ときに情に訴えることも大切。
• 硬軟織り混ぜて人を動かす「人間力」
部下を動かすのはポジションパワーではなくヒューマンパワー。人気取りのためだけに相手に近づき過ぎないようにしなければならない。舐められてしまうと、最後上司として残っているのはポジションパワーだけになってしまう。
また、部下のことを常に気にかけることも必要。「上しか見ていない」と思われてはマネジメントは成立しない。
• リーダーとしての高い使命感
人に偉そうに言うのであれば、自分を厳しく律する必要がある。スキャンダルは一瞬で命取りになるので、きをつけるべき。
3.ブレないリーダーになるために
• 目標数値ではないビジョンをつくる
年度計画だけでなく、根本的なところで「どんなチームでありたいか」「その中で何を成し遂げたいか」ということを整理しておくことで、チームを率いる上での軸ができる。その際は全体最適の観点から、自部門を超えて考えることが必要。
• 言行一致を目指す
日々部下とコミュニケーションをする中で語っていることと、実際の行動が異なると部下は離れてしまう。踏み絵から逃げず、「私はこう思う」と主張できるかどうかがポイント。
• 腹をくくる
結果にコミットするだけでなく、価値観にコミットする。いざとなったらいつでも会社を辞めてやるという覚悟さえあれば、たいていのことは怖くない。ある程度潔さを持って割り切り、前に進むこと。
• 時に、一人になってゆっくりと内省し、自分の目標やそれに対する取り組みを振り返る時間が必要。そういった意味で、家庭とプライベートは切り分けること。