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本の甲子園に今年も行ったよ

「これは、『わかりやすい毒親』と『わかりにくい毒親』の物語なんです」

このセリフが、目の前のまっすぐな瞳と一緒に心へ飛び込んできた。17歳で、これを言葉にできてしまうなんて。

1年前も抱いたはずの驚きに、まだ慣れない。本を紹介するのを、聞くだけだというのに。




1年ぶりのワクワクを携え、会場に到着した。そう、今年も全国高等学校ビブリオバトル決勝大会の観覧に来た。

高校生ビブリオバトル、通称「本の甲子園」。高校生が持ち時間5分で1冊の本を紹介する。会場の投票で「1番読みたい本」に選ばれた人がステージを進めていく大会なのだ。

今年の会場はよみうり大手町ホール。大きな舞台の上に、各都道府県予選を勝ち抜いた約50名の高校生たちが全国から集まっていた。

去年も思ったけれど、各選手の「本を好きになったきっかけ」が紹介される時間が好きだ。

「ジャンケンで負けて図書委員になった」という偶然がもたらしてくれたものや、「好きな女の子が本好きだったから」といった甘酸っぱいものまで。ここにいる高校生全員が、無類の本好きという事実だけで、なんだか嬉しくなってしまう。

選手紹介を終え、予選ブロックへ。予選は4つの会場に分かれて同時に開催される。観覧者は好きな会場を選べるのだ。さてどうしよう。ぼくは出場者に親戚や知り合いがいるわけではない。

ふと出場者リストに目を落とす。すると、B会場になんだか見覚えのあるような名前が。いや、気のせいか。それより、B会場には福島県代表もいる。福島に住んでいた頃の思い出が蘇り、応援したくなった。よし、この子が出場しているブロックに行こう。

そうして、予選ブロックが幕を開けた。高校生たちは5分間を全力で使い切り、好きな本への愛情を語り始める。

整理だった構成でわかりやすく本のあらすじを紹介する子、演劇のように登場人物になりきってセリフを諳んじる子、会場にいくつもの質問を投げかけて注目を集める子。

それぞれのスタイルで「この本を読んでほしい!」という気持ちをぶつけている。いつの間にか、聴いているこちら側の姿勢も前のめりになっていた。

よく見ると、本を持つ手が震えている子もいる。でも、その緊張を押し殺して、堂々と目の前の人に声を届けている。その一生懸命さは、ひとつも取りこぼしたくないくらいに初々しくて綺麗だった。

読みたい本リストが溜まり始めた、予選ブロック後半のこと。壇上に姿を現した女の子を見て、脳みそがピリリ、と音を立てた気がした。

(この子、見たことある)

すかさず手元の出場者リストに目を向ける。山口県代表…! 思い出した。去年の予選ブロックで出会った子だ。今年も、全国への切符を掴んでいたんだ。

リストには「2年生」の文字。そっか、去年は1年生だったんだ。1年前の記憶が、頭のノートをバサバサと音を立てさせながら蘇る。

「私、読んだあとに嫌な感情になる『イヤミス』が大好きなんです! 人間関係のドロドロした感じがたまらなくて…」

ふわふわとした雰囲気から放たれる、ギャップあるセリフに心を掴まれたことを覚えている。当時紹介していたのは、『みんな蛍を殺したかった』(木爾チレン)という小説。

高校の生物部を舞台に、影を増したコンプレックスに包まれるクラスメイト同士の人間関係と命のやりとりを描く物語。

ぼくは普段読まないジャンルだけれど、彼女の紹介がずっと心に残っていて、最近読み切ったばかりだった。

だからこそ、彼女が1年越しに目の前に現れたことに驚いた。あのときのふわ〜っとしたイメージに、「スンッ」という落ち着きが加わったように見える。

そうして、2回目の全国大会となる彼女の紹介が始まった。選んでいたのは、小説『光のとこにいてね』(一穂ミチ)。

シングルマザーで充分な愛情を注いでもらえなかった少女と、裕福だが言いつけが多い家庭で縛られるように育てられた少女の物語。

正反対の家庭に生まれた2人が出会い、少女から大人になっていく中で再会を繰り返していく。光には影があるように、お互いの存在が双方の生き方に影響を与えていく。

こんなあらすじを紹介しながら、彼女は「光と影の関係性」に自分の解釈を織り交ぜて語っていた。それでいて本の魅力を3つに絞り、順序立てて頭にストンと落ちるように説明していく。

そして紹介は5分ピッタリで終わった。きっと、何度も何度も練習したんだろう。その背景に映る努力まで想像してしまう。去年も素晴らしい発表だと感じたけれど、今年はより「読みたい」と思わせるような、引き込まれるストーリーだった。

ビブリオバトルでは、本の紹介が終わった後に質疑応答の時間がある。ぼくは横目で他の人の手が挙がっていないことを確認するや否や、気がつけば右手をそろりと出していた。

スタッフからマイクを手渡される。発表が素晴らしかったこと、この本は親子関係にフォーカスが当てられていると感じたこと、その上でご自身が今後家族関係で大切にしたいと思ったことを聞きたい、と発言した。

すると、彼女から返ってきたのが冒頭のセリフだった。

「これは、『わかりやすい毒親』と『わかりにくい毒親』の物語なんです」

し、し、思慮深すぎる…! 物語を頭で咀嚼した上で、自分の言葉で包み直している。こんなことが、高校2年生でできてしまうなんて。

そこから、親から受け取った愛情をしっかりと受け止めることの大切さに気づいたということを話してくれた。ちなみに、彼女の親御さんは毒親ではないらしい(安心した)。

高校生がじっくりとこちらを見つめながら、自分の質問のために言葉を組み立ててくれている時間は、本当に本当に贅沢だった。

彼女には(1番前にいるし質問してきたけど何者…?)と思われていたかもしれない。しかもまさか、去年の予選も観戦してるとは思わないよね。

でも2年連続で、あなたの紹介に心を打たれている。今年の本も、絶対に読む。本人には届かないだろうけれど、あなたの深海のように深いところからも解釈を拾い上げる紹介が1番印象的だったよ、とここに残しておきたい。

そして予選ブロックの結果発表。最も票を集めたのは福島県代表の男の子だった。山口の子が決勝に進めなかったのは残念だけれど、福島の子の発表も素晴らしすぎた。選ばれた瞬間、拳を握りしめて「っっしゃあーー!」と声を漏らしていた姿が印象的。

そうして、8ブロックから選出された高校生たちが決勝大会へ。結果はこちら。

優勝したのは高校2年生の女の子。「人生2周目?」と思わせる落ち着きようで、核となる情報は言い切らず「中身が気になる!」と思わせる巧みな話術だった。

優勝インタビューで「来年も出てくれますか?」という問いに「難しいですね」と即答していたところも大人びていた。

本の甲子園、また来年も観に行きたい。読みたい本が、グッと増えるから。そして1年越しに成長した高校生に、再会できるかもしれないから。

読みたいリスト増えすぎ問題

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