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『ダンス』竹中優子(2024年・新潮新人賞受賞作)-芥川賞候補1

 (1,593文字)
 次回の芥川賞候補にわたしの参加したワークショップで講師を務めた乗代雄介さんがいたため、芥川賞が発表される前に候補作を全部読んでみることにした。選考は2025年1月15日。
  「小説トリッパー」だけ手に入らなくて困っている。

 最初に読んだのが新潮新人賞受賞の『ダンス』だ。
 作者の竹中優子さんは早稲田大文学部卒。すでに短歌で角川短歌賞、現代短歌新人賞、詩で現代詩手帖賞を受賞し、中原中也賞の最終候補になっている。

三人まとめて往復ビンタしてやろうー私は傷心の先輩に振り回される。新時代の会社員小説。

 同じ部署内で三角関係が発生し、「私」は、休みがちになった先輩・下村さんの代わりに残業の日々を送る。しだいに下村さんの失恋行脚に関わるようになっていく。

「新潮2024.11月号」目次&わたしの要約

 冒頭からスルスルと読めて面白い。

 今日こそ三人まとめて往復ビンタをしてやろうと堅く心に決めて会社に行った。実際、行ってみると三人は三人とも出社してとらず、「あ、なんかお休みらしいよ」と垂れ目の山羊みたいな顔をした係長が声をかけてきた。最後に休みの連絡を入れてきた下村さんに対して係長が優しく「無理しないで、ゆっくり休んで」と声をかけているのを聞いて、山羊のその善良さを私は恨んだ。

新潮2024.11月号「ダンス」P.8  

 主人公の同僚として田中さん、佐藤さんが出てくるが、二人はすぐにあだ名で書かれるようになった。係長もあだ名で、後ほど出てくる男性の名前は太郎なので、これも記号のようだった。わざとトップ5に入る名字にしたのだろうか。

 彼氏を取られた下村さんは婚活パーティーに行ったり、飲んでベロベロになったり、元恋人が同僚と住み始めた家を見にいったりする。そしてまた仕事を休み、「私」を腹立たせる。
 匿名性の影響で、しだいに下村さん観察日記のようなホラーを感じた。

 派手な行動の下村さんに比して「私」は名前もなく、語り手のため容姿も不明だ。下村さんにちゃんと文句を言うのが良い。「婚活パーティー行ってんじゃないよ。仕事しに来いよ!」
 効いていないのか、怒られても下村さんは笑っている。彼氏が同僚に鞍替えしたのに激怒するでも号泣するでもなく、もがきながらも平静を保とうとしている。

下村さんが傷だらけでボロボロで消耗し切っているのは間違いないのだが、同時に下村さんはダンスを踊る才能、ダンスに夢中になる才能に輝いていた。

新潮2024.11月号「ダンス」P.20

 そうか、失恋しても人生うまくいかなくても踊ってることにすればいいのか。そしたらどんなときでも楽しそうに見えるかもしれない。
 自分のことも他人のこともダンスしていると思ったら、無闇に否定することなく、みんなが愛おしくなるだろう。
 最後のシーンで、人生を達観したような、晴々とした幕引きがあり、こういう場面を多く読むことで生きていけるんだと思った。

 インタビューで竹中さんが、高校生くらいから小説家になりたいと憧れていたがまったく書けなかったこと、短歌を詠むことで小説にも取り組めるようになったと話してるのが印象的だった。

自分が何が得意なのかが分かったのも短歌のおかげです。(略)取捨選択するようなことが短歌では大切で、自分も鍛えられています。

新潮2024.11月号受賞者インタビューP.102

 好感しかない。わたしも小説書きたいんですけど…詩歌に手を出せばいいのかな。

 受賞の基準がわからないので、この作品が芥川賞に相応しいかわからない。けれど発表がより楽しみになった。
 当日は乗代さんの編集担当者、出版社、親戚、塾講師時代の生徒さんたち、乗代さんの同級生たちの次の次の次の、この世で100番目以内には、両手を組み合わせてドキドキしながら待つだろう。いや、何番目とかじゃなく、乗代さんの作家生活を応援しています!

読む:12/14、12/16
note:12/16、12/17

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