『どこの不審者だおまえ!』に読む、有川ひろの行動力
敬愛している小説家、有川ひろのエッセイ集中の一篇、『どこの不審者だおまえ!』。タイトルの訴求力はもちろんのこと、情感たっぷりの語りに引き込まれる。このエッセイには彼女の小説家としてのバイタリティ、私も見習わなければ!と思わせるエネルギッシュさがある。
これは有川ひろが執筆のために陸上自衛隊へ取材の電話をした際、まさに「どこの不審者だおまえ!」と言われんばかりの名乗りをしてしまったというエピソードなのだが、冒頭部分からすでに有川節が炸裂している。
「『すみません、私自衛隊に興味がある〇〇在住の一般市民で決して怪しい者ではないのですが』なんだそのやみくもな不自然さは。社会人としれもう少しマシな口上はなかったのか」。明らかに怪しいセリフと自虐的でコミカルなセルフツッコミに、思わずくすりと笑ってしまった。
さらに有川は、防衛省に問い合わせた際のエピソードをこんなふうに語っている。「四国沖の演習空域と高知県がどれくらい離れてるか、航空幕僚監部広報室に航空路図を定規で測らせた人は私が初めてらしいです。そんな初めてもどうなんだ」すごい、グイグイだ!!彼女は小説家として事前に取材を申し込んでいたわけではなく、見ず知らずの防衛省関係者に一般市民として質問をしているのだ。行動力の権化。そんなにさらっとエッセイのネタにしてしまう点においても、彼女の豪快さというか、明朗快活な人柄が伝わってくるようだ。
執筆をする際には現地に足を運んで情報収集をしたり当事者に念密な取材を行ったりと、彼女の執筆スタイルはとても行動的だ。そんな有川ひろが自衛隊の広報の方に質問すると、返ってくる第一声は必ず「は⁉︎」および「へっ⁉︎」らしい。その原因について有川は「①質問がよほど頓狂だった。②素人丸出しにも程がある質問だった。たぶん両方ピンポン」と自己分析しているが、彼女の愉快な人柄をもっとも感じさせるのは締めくくりの一文だ。「い、いつか『は⁉︎』とか『へっ⁉︎』とか言われない立派な質問をしてやるー!」
文芸を学ぶ人間として有川ひろには見習いたい点がたくさんあるが、このような取材スタイルは真似できそうにない。この能動的な執筆スタイルが、有川ひろ作品ならではの、現場の実感ありあまる描写を可能にしているのだろう。
引用文献
有川ひろ著『倒れるときは前のめり』、角川文庫、2019年、14頁。
こちらは、とある科目のテスト用に書いたけれどボツにしたエッセイです。「いいな」と感じたエッセイについてエッセイを書く、というテーマでした。有川ひろさんの自衛隊三部作がとても好きなのですが、彼女のエッセイを読んだのははじめて。とても読みやすく、くすっと笑えたりずしんと胸に響いたり、情感豊かなエッセイ集でした。
2023/08/08
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