手を滑らせて落ちていくグラスを眺めながらも何も出来ないみたいに、摩耗した感情が解像度を下げていくのを見ていた。水面の揺らぎが消えたわけではないのだけれど、シャ…
注:身内の不幸も動物の飼育経験もありません。念のため。
鈍だ。ずっと膜の中にいる。目は文字の上を滑り、言葉は肌の上を滑る。定型内の非定型な毎日、目的からの逆算、合理性、効率性、偶然と予定外の排除、驚きは起きるべきで…
手を滑らせて落ちていくグラスを眺めながらも何も出来ないみたいに、摩耗した感情が解像度を下げていくのを見ていた。水面の揺らぎが消えたわけではないのだけれど、シャッタースピードの遅すぎるカメラのような思考では追いつくことが出来ない。感情にも思考にもどちらにもピントは合わず、ピンボケを味とも思えず、それでもシャッターを切り続けることをやめられない、壊れかけのカメラ。 なんてことを、気づけば幾月にいっぺんくらいしか思い出さなくなり、毎日そこそこ楽しく働き、ぼちぼち暮らしを保ち、
鈍だ。ずっと膜の中にいる。目は文字の上を滑り、言葉は肌の上を滑る。定型内の非定型な毎日、目的からの逆算、合理性、効率性、偶然と予定外の排除、驚きは起きるべきではないから。海風に傷む柔らかな腕も、せせらぎに揺らぐ剥き出しの足もここでは望ましくない。水路づけられた成長へ邁進。そんなの全然生きていない。雑踏、日光、騒音にも耐えられるようになった。でも何も突き刺さってこない。痛みもない、血も涙も出ない。衝撃も感動もない、動かない。錆びている。切り替えられない無音の砂嵐。濤声と雷鳴