春
見ず知らずの人に怒り散らすくらいの
傷口が痛みさらす人間のはけ口を
嘲笑する人間の目は虚空で空虚に飛ぶ鳥を
見逃して
鳥の羽ばたきに夢見がちな
少年の硝子玉みたいな眼差しは割れかかって
今にも羽根が生えそうで
ちいさな風でも吹っ飛ぶ種子のような春の息には
泪さえも零れないが
爆発ばかりが起こる世界の映像には
泪と赤い血液が流れている人間が
心を攫う春の夜風に追い越されて
桜吹雪の中を歩いて遠くに行きたがる
さようならするにはあまりにも暑過ぎる春で
窓からしか眺められない桜の木を綺麗ねといって
桜色の皺は無数の夢を見ている乙女の影が見えた
あなたは春のつく苗字を嫌って
最期の我儘だから聞いて欲しいと言っていた遺言を
叶えようとするわたしのこころは
いつか見た夜の海の色をしていた
春の空に昇った煙が和ぐ瞬間を見た
あなたのあなたの泪を堪えた日々の数々を
わたしに下さい
高く高く立ち昇る雲の粒子に
混ざるあなたの骨の匂いを
知らないまま吸って吐いている
人間達
木々達
生き物達
ああ春の空なんて大嫌いだ
思い知らされることを静かに無視して
静かな海辺に寝そべり世界の終わりを
待ってしまいたくなる
待ち侘びてしまいたくなる
夕陽が染まる風景を眺める列車のなかで
生まれたての郷愁が流れ去る
木々の隙間から洩れるひかりのこどもを
やわらかに膝の上に抱き抱えている
なんていう夢を見ていた
なんていう夢を諦めかけていた
全てが叶ったなら
この世界はどこかで歪むのだろう
そんなことに気づき始めてから
わたしはわたしの夢を諦めかけて
ベランダの植物達に水をあげている
もう終わりにしたいって
何度も思うあなたの乾いた目には
燃えるような花の色を隠していて
時々あなたの目にも水が溢れるのを知っている
早いところ春なんて過ぎ去って欲しいなんていって
旬の野菜をスーパーマーケットで
一緒に選んでいる時間が好きだ
強くもない弱くもない千の木洩れ日が
さらさらと揺れている
溝川で羽虫がわいている春に
泣いたり笑ったりしている
春雷に優しく叱られたい
春が嫌いだってことを