【エッセイ】わたしが頑張らなくても、いいらしい。


心療内科の前に、前日深夜に突然予約した美容室へ行って髪を少しだけ切った。それから少しだけ、梳いてもらった。

だから頭がずいぶん軽くなった。


このあいだの土曜日、母親が父親にとある注意をした。
それはめちゃくちゃ小さなことで、でもたぶん、父親にとっては地雷とか逆鱗とかそんなのに触れることだったのかもしれなくて。だってわたしは父親じゃないからわからない。

それが理由で土日とも父親の機嫌がすこぶる悪かった。
食べるからと母親に作らせた昼ご飯に手を付けず、お風呂から上がると夕ご飯を食べずに二階へ上がっていった。しばらくして布団を持って下りてきて、リビングで寝始めたのだ。
母親はいつもリビングのゲージで寝る犬と一緒に二階の両親の部屋で寝た。

その一日、わたしは、異常なほど元気に明るく振舞っていた。

だって父親の機嫌が悪くて、理不尽に犬に八つ当たりして拗ねて周りに気を遣わせて、唯一父親を止められるであろう弟もいなくて、わたしは家の空気が悪くならないように頑張った。
もちろん家の空気を悪くしないように、なんて誰に命令されたわけでも頼まれたわけでもなくって、それはただわたしがその空気にのまれないようにするたった一つの術だったからそうしていただけ。

ずっとずっとそうだった。
その空気が耐えられないから、その空気から自分を守るために明るく無駄に笑顔をつくって家の中で飛び跳ねるんだ。
ほんとのほんとに家の空気が悪くなるのが嫌だからとか、母親を守るためとか、そんなのなかった。わたしはわたしのためにそうしてきたんだ。

夜、部屋に戻って布団にこもって、イヤホンで耳をふさいでずっと泣いた。


日曜日、父親はまだ拗ねていた。
わたしはもう力がなかった。そして父親がまだ拗ねて周りに気を遣わせていることに腹を立て始めた。
いい加減にしろ、一家の大黒柱がその権力を振りかざして娘のわたしにまでこんな思いをさせて、そんなに楽しいの?なぁ、楽しい?それ。

もう知らん、勝手にやってろガキよりクソガキのいい歳したオッサンが。

月曜日には機嫌が直っていて、そのことにもわたしは苛ついた。
へー散々暴れて納得いくまで周りを振り回して自分だけスッキリしてるんだ、へーーーいいね楽だね、そりゃ楽しいね。反吐が出る。

心療内科で一連のことを先生に話した。
「日曜日にはもう知らんって感じで……」って言うと、先生は、

「それ大事ですよ、よる子さんがそう思えたことは大きな進歩です」

と笑った。それから続けて、

「頑張らなくても周りはどうにかなるんですよ」

とも言った。
わたしはこの一言にすごく、すごく驚いたし納得もした。
ぜったい自分のために頑張ってきたはずだけれど、それでもその言葉にここまで衝撃を受けたのは、なんでだろうね。


わたしが頑張らなくても、案外、なんとかなるらしい。

わたしが頑張ることで何かが良くなるなんてことは考えていなかったけれど、でも、何かが良くなればとは思っていたかもしれない。


先生は最後に雑談と称してわたしが着ていた攻殻機動隊と書かれたGUのTシャツを見て「その文字のとこ、見た人になんか言われたりしない?」と興味津々に聞いてきた。
ダンゴムシの絵が描かれたTシャツとかCCさくらのTシャツとか着てるときも、先生はわたしに雑談なんだけどと前置きして話をしてくれた。

うれしいよね。
先生、いつもありがとうございます。

わたし、頑張らなくてもいいんだってさ。


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