マガジンのカバー画像

小説、詩、ことば

31
よるが描いた世界
運営しているクリエイター

2021年6月の記事一覧

いつも同じ日

「才能のある人しか、そういうことは言っちゃいけないと思う」
 昼間に投げかけられた言葉を反芻して、陽葵は小さくため息をつく。
 前髪の先から滴る水が、張られた湯に波紋をひろげた。
 突然現れたウイルスのせいで感染症が爆発的に流行し、陽葵たちの代は就職難民と言われた。ただでさえ自分をアピールすることに向いていないのに、この状況になってしまえばお先は真っ暗だと、彼女は確信していた。
 嘘をついているよ

もっとみる
Sober

Sober

忘れたくて 必死で 自分のなかにあるものを 吐き出した 脳が麻痺して わからなくなってく あなたが誰だったのか 私達が何をしたのか
気がつけば 泣いていて 欲しくて たまらなくなる この感覚が気持ち悪くて 大嫌い なのに 症状は治らない
あなたの名前を見るたびに 高揚 緊張 焦燥 絶望 する 記憶が 引っかかって あなたの体を 蘇らせる ずっしりと重たい からだ わたしは 呼吸が浅くなる 動悸が

もっとみる