Yahoo!ニュースを読んだ感想は、なぜ「いいね」ではいけないのか
少し前から、Yahoo!ニュースで配信される記事にはこんな表示が出るようになりました。
記事を読んでどうだったか?という感想を選んで押せる「記事リアクションボタン」です。
みなさんはこのボタン、押したことありますか?
わたしは押したことがあるのですが、実はそのときちょっと引っかかったんですよね…。
「学びがある」「わかりやすい」「新しい視点」という言葉に、です。
なぜ、「いいね」のような単純な言葉ではないんだろう。記事を読む側からすれば「いいね」のほうが押しやすいのに。
気になって調べてみると、この3つのボタンにした理由があることを知りました。
3つのボタンは、押しやすさより、良い記事を生むサイクルを重視していた
理由が書かれていたのはこちらの記事。記事リアクションボタン開発の舞台裏が紹介されています。
Yahoo!ニュースでは、PVにもとづく配信料が媒体社(新聞社や通信社)に支払われています。記事リアクションボタンは、読み手が押したボタンがユーザーのフィードバックとなり、この配信料に上乗せされる仕組みです。
これによって、PVだけでは測れない質の高い記事を支援することができます。
興味深かったのは、UX(User Experience)を考えたとき、ボタンの言葉について頭を悩ませたというくだり。
開発に携わったデザイナーの荻野さんによれば、「いいね」など単純に感情を表すボタンは「一時的UXが高いのでクリックしてもらいやすい」そうです(わたしの実感、合ってた)。
一方で、「学びがある」「わかりやすい」「新しい視点」というボタンにしたのは「その場のクリック率ではなく、長期的な目線である累積的UXを優先した」結果だというのです。
一時的UX? 累積的UX? むずかしい単語にハテナが浮かびますが、一時的UXとは「その場ですぐユーザーのためになる」ことで、累積的UXとは「長い目で見てユーザーのためになる」こと。
つまり、記事リアクションボタンでは、記事を読んでいるユーザーのその場の押しやすさより、長い目で見てユーザーのためになるサイクルを優先したと言えます。
どういうことか、記事にあった比較のイラストを見てみましょう。
「学びがある」「わかりやすい」「新しい視点」は押すハードルが少し高いかもしれない。それでも、ユーザーは押したことでさらに良い記事を増やす手伝いができる。
Yahoo!の開発チームは「将来的に良い記事が増えることが、ユーザーのためになる」と判断したわけです。
これはすごく考え抜かれたUXだなと思いました。
「その場ですぐ効く」UXだけを追求すると、何が起きるのか
では、もしYahoo!の開発チームが記事リアクションボタンで一時的UXだけを追求したら、どうなるのでしょうか。
Yahoo!ニュースでは毎日7500本もの記事が配信されていると言います。
そこで「いいね」が記事リアクションボタンに採用されたら、もちろん「いいね」を押すユーザーは多くなるでしょう。
ただそうすると、「いいね」の数が目立つ記事ばかりが読まれることになり、目立たないけど重要なことが書かれている骨太な記事は埋もれてしまいます。
ニュース記事は、SNSとは違ってPVつまりたくさんの人に読まれることだけが価値ではありません。
でも新聞社や通信社は記事を読ませるために、もっとユーザーの興味を惹こうとするでしょう。
ネガティブな想像ですが、記事タイトルを過激なものにしたり、わざと対立を煽るような言葉を入れたりして、記事の質より記事を目立たせることに躍起になるかもしれません。
それは結果的に、ニュース記事から情報を得るわたしたちユーザーの気持ちをやみくもにかき乱す、信頼できない記事を生み出すことにつながるのではないでしょうか。
目の前の利便性だけを追求することが、逆にユーザーを不幸にしてしまう。それは最悪のUXですよね。
長い目で見て、ユーザーのためになることを
今回、記事リアクションボタン開発のストーリーを読み、ひと口にUXと言っても一時的UXと累積的UXがあると知って勉強になりました。
Yahoo!の開発チームのように累積的UXの視点を持ち、自分たちがやろうとしていることは長期的に見てユーザーを幸せにするのかを考えること。
これはサービス改善や商品開発にととまらず、あらゆるビジネスの現場で大事なことだと思いました。
わたしが仕事で書く、広告のコピーもそうです。
チラシや通販サイトで必要なのは「読んだ人にその場で効く」一時的UXなコピーですが、企業のブランドスローガンにふさわしいのは「読んだ人の心により良い形で残る」累積的UXなコピーでしょう。
その違いをきちんと理解して、どちらもしっかり書き分けられるようにならねば…と改めて感じました。
ここまでお読みいただきありがとうございます。参考になったよ~という方はぜひスキやコメント、フォローをよろしくお願いします。
文:シノ
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