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スウェーデンの小学生は学校で「デモ」を習う

名古屋市で開催された読書会に参加してきました。Facebookでたまたま見つけて参加した集まりだったのですが、課題本の内容も、読書会それ自体も、すごく良かったのです。

読書会のテーマ本は『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む 日本の大学生は何を感じたのか』。これは実際にスウェーデンの基礎学校(日本の小学校4〜6年生にあたる)で使用されている社会科の授業の教科書から抜粋された本文(訳文)と、それを読んだ大学生(翻訳者の明治大学 国際日本学部 鈴木 賢志先生のゼミ生)の感想が併記されています。小学校の教科書なので非常に読みやすくはあるのですが、その内容自体は「え、これ本当に小学校でやるの?小学生わかるの?」という驚きの連続でした。その内容については以下読書会の流れの中で紹介します。


読書会では、まずテーマ本を章ごとにメンバーから担当を決め、その章をもう一度読んでみて(読んできていない人はその場で読んで)、印象的だった箇所や、自分の意見・感想を紙に書いてまとめる時間がありました。その後、集まって各自が担当パートについて発表し、さらにディスカッションをするという流れ。短時間で本の概要を知ることができ、さらにディスカッションで学びを深められ、効率的かつ民主的で良かったです。(これはアクティブ・ブック・ダイアローグという読書会の手法らしいです。本家のリンクは下記)

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ソーシャルメディア=民主制の道具

私は第2章「メディア」パートの担当に。
この章の中から私が特に印象的だと感じた箇所は下記。
※""内は本文からの抜粋、それ以外は筆者要約

・ソーシャルメディアは、民主制の道具
"ソーシャルメディアは、友達とどこで何をしているかについて連絡を取り合うときにもっともよく使われています。それだけでなく、ソーシャルメディアは、スウェーデン、そして世界中の権力者に影響を与えるために使うこともできます。(中略)あなたの意見が多くの人に急速に広がるわけですから、あとからそれを取り消すことはとても難しくなります。"

・デモなどを行い世論を形成することができる
自分の意見を世の中に広げ、世論を形成するために、メディアを利用することができるとし、その具体的な手法を下記のように示しています。
・友人や親類から署名を集める
・地方の新聞に投書する
・フェイスブックでグループをつくる
・人々を集めてデモを行う
・責任者の政治家に直接連絡をとる

・独裁制におけるメディア
"あなたも、ジャーナリストたちも、その国の権力者を批判しようとしません。また、あなたは、権力者が閲覧を許したウェブサイトしか見ることができません。"

・民主制における制限
"憲法はメディアにおける出版と表現の自由を守っていますが、スウェーデンには、公表して良いものの制限があります。"
新聞やネットで公表することが許されていないものの例
1)集団に対する憎悪の宣伝(ヘイトスピーチ)
2)違法な暴力の描写
3)中傷
4)違法な脅迫
5)扇動
6)裁判における不正

どうでしょう。ここだけ読んでも非常に「実践的」かつ「現実的」と感じませんか。ソーシャルメディアを子どもが使用する権利を認め、かつそれをどのように使っていけば良いのかの具体的な手法まで示してあるのです。(ちなみにこの章には他にもフェイクニュースなど情報の真偽を見極め批判的に資料を見ることの重要性にも触れていました)
小学校あるいは中学校教員経験者という参加者の方々からも「学校でここまで教えることはない、むしろ校内での使用は禁止するしその理由を深く考えさせることはしない。教員の仕事はLINEなどで起きてしまったいじめなどのトラブルに対処することになってしまっている」という話がありました。

スウェーデンの10代の環境活動家グレタ・エルンマン・トゥーンベリさんが国連でスピーチをしたことがニュースになっていましたが、彼女のような存在が生まれるのはこのような教育的背景もひとつの要素なのでしょう。

小学生から、納税意識を養う

また、「政治」を扱う章を担当された方の発表で印象的だったのは
税金の使い道について、市が税金の用途として決定するのは「学校/公園と道路/スポーツ施設/高齢者の介護/図書館...」一方国が決定する分野は「国防/子ども手当や住宅手当/鉄道/法律...」というように非常に細かく記載があるということ。高い水準の納税義務がある国であるがゆえに、納税の意義とそれを自分たちで決めていくのだという意識を小学生のうちから育てていく姿勢が感じられました。

またこの本を通じて、章の中にいくつもの「ディスカッションテーマ」が記載され、学んだ内容について議論するように促しています。その問いが、小学生でこのことを話せるの??というレベルのものが多かったのです。たとえば…

・ソーシャルネットワークはすべて企業です。これらの企業はどうやって収入を得ているのでしょうか?

・インスタグラムとフェイスブックの年齢制限は13歳です。あなたは、なぜ13歳が年齢制限として設定されたと思いますか?

・もし、アメリカで半分以上の人々が自分の選挙権を使わず、大統領を選ばないという選択をしたら、アメリカの民主制にとって、どのような結果になると思いますか?

・刑罰を重くすれば、犯罪は減ると思いますか?


これらの問いは、大人であってもすぐに考えがでてこない、うまく意見が言えないものもありますよね。ただ、わからなくても、考えること、知ろうとすること、人の意見を聞くことが大切で、その訓練を小学生からしているのだと私は理解しました。

という感じで本の内容は驚きの連続でしたし、参加者の皆さんの意見や教育現場の現状などの話を聞けたことも非常に興味深く、あっという間の2時間でした。

最後にこの読書会は、名古屋市内にある長善寺の境内の一室で行われました。住職の蒲池さんは「小さな学びの場として場所を開いている」と話されていましたが、お寺というのは雑念をはらい先入観なく目の前のことに没入できるので、学びの空間と非常に親和性が高かったです。素敵な空間のご提供をありがとうございました。

名古屋開催で、この2時間のために東京から参加したのですが、その意義が十分にありました。こういうこじんまりとした学びの場って、いいですよね。東京でも開催できたらいいなあ。

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