READYFORに入社して約1年。VPoP→CPOとして何をやってきたのか
この記事は、READYFORアドベントカレンダー2023の25日目。締めを括る記事になります(プレッシャ〜)
まずは自己紹介をさせてください。今年2月にREADYFOR にVPoPとして入社し、7月より執行役員 CPO を務めている大野木と申します。
初日から参画歴も長いVPoEの熊谷さんが、これまでのREADYFORのエンジニアリングの歴史から事業展望まで、超大作記事を書いてくれたのでハードル高いぃ…と悩ましいですが、本記事では自分がREADYFORに参画したこの1年を振り返り、何を考えてやってきたのかを言語化することで、プロダクトや戦略に対する考え方を伝えることができればと思います。
BPO事業会社でのチャットボット事業立ち上げを経て、メルカリ・Chatworkとプロダクト開発で戦略・戦術・組織について思考と挑戦をしてきましたが、その中で考え方や進め方をブラッシュアップしてきたことで、再現性を持って成果を出せている部分もあると考えています。この記事がプロダクト開発や組織を考える上で誰かのヒントになれば嬉しいです。
入社後の自分への期待値と現状認識
事業(ビジネス)側とプロダクト戦略・戦術の連携
面談の中でCEO/COO/CTO全てから期待として伝えられていた事だったので一番の期待と捉えていました
ファンドレイジング事業を統括するCOOと議論しながら短中期のプロダクト戦略を進める状態が作れているので、一定やれるようになってきていると思っています
VPoPとして入社したがCTOの退任があり、半年ほどでCPOとしてプロダクト&エンジニアリングの組織全体をみることになった
もちろん実務上エンジニアリング側はVPoEがグリップしてくれているとはいえ、組織長として経営的な説明責任やそのための理解は必要なので、気持ち的にはわりと大変だった
CTOがこれまで作ってきてくれたプロダクト&エンジニアリング組織が頼りになることは本当に救いで、PMはやはり頭数じゃないと思わせてくれているし、熊谷さん率いるエンジニア陣も本当にすばらしい
入社してからどんなことをやってきたのか
入社してほぼ一年経ちますが、ここからは組織の中でプロダクト開発のためにどのようなことを考えてやってきたのかを述べていきたいと思います。
1. まずはREADYFORの事業を自分なりに捕まえる
プロダクト戦略を考えるにあたって、もっとも重要なことは、前提となる事業構造を理解することだと考えています。プロダクト開発の意思決定や成果をP/Lに紐づけたり、測るべきKGI/KPIをどう設計すれば良いかわからないという相談を受けることがありますが「機能しうる設計ができるかは事業構造が大前提になるので、まずはその構造を自分なりに理解・整理することが大事」ということを伝えるようにしています。
例えば、READYFORの場合はどうでしょうか?
READYFORのクラウドファンディングをエクササイズ的に異なる軸で簡単に指標分解をしてみます。
各指標をプロダクト以外の視点でみるとどのような被りがあるかも、赤の吹き出しでコメントを入れてみます。
弊社のウェブサイトではありたい姿として 資本主義では解決できない社会課題を解決するためのお金の流れをつくる「寄付・補助金のインフラ」へ と掲げているのですが、クラウドファンディングサービスとしても対価型(リターンを期待した支援・プロダクトの先行販売等)よりは寄付型(応援が前提でリターンはあくまでお返し)のプロジェクトが主を占めるプラットフォームになっています。
入社して理解が進んだことですが、特に大きな支援・寄付を必要とするプロジェクトではその意義や価値をできるかぎりシャープかつ共感できるように伝えるスタートアップピッチのような表現力、支援集めの中でより大きな共感や協力を得るための継続的なコミュニケーション構築スキルが重要になります。
「マーケティングをどうするか」「魅力のあるリターンを提供できるか」などの更なるスキルも必要ですが、非営利団体等で事業に必要な実行力に加えてこれらのケイパビリティまで持ち合わせている組織は稀ではないでしょうか。
READYFORにはファンドレイジングやクラウドファンディングに関して側面支援をしていくためにキュレーターという役割や組織があり、多くのプロジェクトをサポートしています。
ちょうど11月に国内最高額で9.2億円の支援を集めた「かはくプロジェクト」をリードしたファンドレイジングサービス部門長の小谷さんの記事も出ているので、興味を持った方はぜひ読んでみてください。
また弊社のクラウドファンディングやファンドレイジングの事業構造ではキュレーターだけではなく、セールス&マーケティングはザ・モデルをベースとしたセールスオペレーションを行っていますし、プロジェクトの社会リスクを判断するレビューや法務、カスタマーサポートのチーム等、様々な組織が連動して成り立っているサービスだと言えます。そして各々の観点で定量的なKPIツリーや目標を持っています。
指標分解のコメントでも少し触れていますが、このような前提を持って考えると、この事業でプロダクト開発単独で売り上げやGMVへの寄与を示す指標を策定しようとすると、別の領域(視点)と成果が被ったり、単独で寄与を証明できる限定的な領域を押さえにいく事になるので、あまり本質的ではありません。
2. 経営陣に変革のためのコミットメントを得る
2-1. プロダクト戦略として1を前提にPLにコミットしないことを承諾してもらう
1のような前提整理と分析を行いながら、経営陣にプロダクトでPLとして部分的な成果を持つよりも事業全体として中長期を踏まえて必要な仕組み(道具)を作ることにフォーカスし、全社として事業価値を高めるプロダクト開発を進められる体制にしたいということを承諾してもらいました。
プロダクト開発の指標設計で「ビジネス指標(PL)で説明しうる指標を策定すべき」という話はよく聞きますし相談を受けることもありますが、まずは上記1のように「自社のビジネスがどう収益を説明可能なのか」を整理をしてみるのが良いと伝えています。
その上で、個人的なポリシーとして「プロダクトの指標はヒト(顧客群)とコト(顧客行動)の観点で指標構造を設計するのがよい」と考えています。これは、ヒトをどのような群と捉えて増加・減少を目指すか、コトはどんな行動を増加・減少させれば結果指標としてサービス利用の拡大や収益に結びつくかという視点で整理をするというものです。
グロースハックのAARRRモデルや、下記3で示すようなグロースモデルの考え方はその例といえると思います。
金額売上など直接的な収益でなく、プラットフォームの拡大を表現するMAUやコアな行動の結果としてのトランザクション数(月の購買数 etc)、新規登録完了数、GMV(ヒトのボリュームと、コトで発生するコア行動の結果の掛け合わせ)などはプロダクト指標と捉えて、指標構造を整理することを意識しています。
2-2.プロダクト戦略整理のための時間をもらう
これも自分として本来早く成果を出すべきという思いもある中で、とても重要な意志表明だったと思います。
私が入社した時期は大きく「コンビニ決済導入」「実行者管理や実行者公開画面リニューアル」のプロジェクトが進んでいましたが、この承認をもって下半期(2023年1 - 7月)のロードマップには手を入れず、完全に現場任せで進めさせてもらいました(戦術を任せるに足るメンバーが揃っていて、ありがたい状況だったということが大前提でしたが)。その間に1や2-1の考え方、タタキ資料を準備して経営陣に当てながらその先の合意形成を進めました。
プロダクト&エンジニアリング組織全体を引き継ぐとなると、本来的にはその時点から現場的な意思決定や今進んでいることの線引きも期待されると思います。ただ、そこにいきなり入っていくと、自身が現場に立って事業ドメインの解像度をかなり高く上げていく必要が出てきますし、それによってプロダクト戦略を考える時間がなくなると結局四半期やその先半年では組織全体に場当たり的な戦略と実行意志を提示していくことになってしまいます。
戦略は変わり続けるものと捉えてはいますが、理想として「デリバリーサイクルとは別にディスカバリーサイクルを回しながら、中期(3〜5ヵ年)のプロダクト戦略全体像と間近半年〜1年のデリバリーとして進めるべき課題や施策を常に組織に提示できる状態」を運営し続けることを目指し、実現できる組織でありたいと考えています。
3. 支援者のグロースモデルを考える
まずは短中期の間近3年をスコープとして、COO責務としてCMO(セールス&マーケ領域)とCPO(私・プロダクト&エンジニアリング領域)が各領域を補完しながら、ファンドレイジング事業としてあるべき姿を定義していきました。その中でプロダクト戦略として「支援者が貯まるプラットフォーム」を目指すことが注力テーマになりました。
深津さんのnoteでの体験を前提としたモデルの作り方がとても良かったので、フレームとして参考にさせてもらい支援者グロースモデルを定義しました。
「支援者が増える」という観点では、プロジェクトの実行者が周囲やSNS、メディアなどから熱意を伝えて支援者を集めてくる構造もあるのですが、このモデルではあくまで支援者の行動という視点でグロースについて整理しています。
上記のモデルに合わせた指標構造も整理して、プロダクト戦略を組織内外に説明していきました。
(とは言いながら、回してきたこの半年ですでにアップデートの必要性を感じており、指標構造は絶賛アップデート中)
4. 目的を為せる組織やチームの体制を考える
これまでの組織を含めた開発体制の経緯はVPoE・熊谷さんの記事に書いてあるとおりですが、上記のようなプロダクト戦略を前提にVPoE/EM陣と議論し、「支援者プロダクト」「実行者プロダクト」でSquadを分けていたプロダクトエンジニアのチームを、ビルドトラップを避けられるようドメインに色付けしない開発体制がとれるよう更新しました。
プロダクト戦略の整理もある中で大きな体制変更を行ったため、混乱も伴ったのですが、各々のチームの頑張りのおかげで1-2ヶ月で概ね収まったと思います。もちろん引き続きより良いかたちを考えながらプロダクト開発を進めていくのですが、両チームが双方のプロダクトを触れるようになったことでドメイン知見も共有化されはじめ、少なくともビルドトラップのリスクは低減しているはずです。
この1年でリリースされた施策
前述の通り、7月くらいまでは元々企画されていた施策「コンビニ決済の導入」や「実行者管理画面リニューアル」などもリリースしてきましたが、その中で上記の支援者グロースモデルを前提に施策もいくつかリリースされ、特にこの半年はかなり確度高く、成果をあげることができたのでいくつかご下記に紹介させてください。戦術にはほぼ意志入れしてなく、各開発チームとその担当PMで支援者グロースモデルから整理した指標構造を元に企画して進めてくれました。
A. プロジェクト募集終了リマインド
PJ募集終了の3日前・36時間前の計2回、支援後押しメールを配信。リマインドが送られたPJの達成金額が増加
B. 「過去の支援履歴に基づいたおすすめプロジェクト」レコメンド配信
OpenAIの埋め込みモデルでプロジェクト類似性を判定し「過去の支援履歴に基づいたおすすめプロジェクト」をメルマガで配信し、CVRが通常メルマガの2〜17倍
D. 支払い方法の入力欄を移動
E. 募集終了PJページの有効活用
「このページを見た人はこんなプロジェクトもチェックしています」枠を追加し、サイトの回遊性が倍増
この先のREADYFORプロダクトをどうしていきたいのか
本稿では、自身がこの一年で取り組んできた役割の中でもクラウドファンディングにフォーカスしたプロダクト戦略について、振り返り整理をしてみました。
しかしREADYFORとして本当に実現したいことは、単にクラウドファンディングの成長ではなく「想いの乗ったお金の流れを増やす」というビジョンの実現です。
もちろんこの辺りも現行プロダクトと並行して考えられる事業を踏まえて思考を回しているところで、この先1年でディスカバリーを回しながら戦略の練度もあげていきたいと考えています。
READYFORの事業やこの先の話に興味があれば、ぜひ私やVPoE・熊谷とカジュアル面談をさせてください。下記に連絡先を載せておきますので、宜しくお願いします!