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「好きなものをゲームにする方法note版」ステップ5:ルールをブラッシュアップする

「好きなものをゲームにする方法note版」は、創作の基本的な原理と流れを、実戦形式で体験する講座をテキスト化したものです。

池袋コミュニティ・カレッジで開催された全6回のワークショップ「米光一成のゲームづくり道場」(2018年4月~9月)をベースに再構築しています。

今回は、いよいよステップ5

以前の回はこちら↓

では、ステップ5「ルールをブラッシュアップする」スタート。

アドバイスを聞かないほうがいい時期もある

さて、進行状況どうですか? まだ面白くなってはいないけど、もうちょいで面白くなりそうな人は挙手してください。あ、けっこういるなあ。
ゲームが完成する段階を1〜9にまとめてみました。
大きく分けると3段階あります。

1:こんなゲームにしたいという想像がある
2:プロトタイプをつくってやってみた
3:ゲームとして回らないので改善する
4:ゲームとしてどうにか回る
5:面白さがある
6:細部をブラッシュアップして面白さを伝わりやすくする
7:友達とプレイして盛り上がってめちゃくちゃ面白くてやめられない
8:さまざまな人に遊んでもらえるかどうかをチェックし修正する
9:どんどん遊んでみる

もやもやして作り直したいな、とか、ゲームとして回ってないな、なんとか回わるようになってきたぞ、という段階が123。
次に、アイデアが実現してきて、面白さが明確になってきて、それがちゃんとプレイのなかで実現できるようにしていく段階まで来るのが456です。
面白いゲームになった!ってところからさらに改善して、自分が想像もしない人も遊んで楽しめるようにブラッシュアップしていく段階が789です。この789をやらずに、うちわだけで楽しめるものを出すと「そこそこ」になっちゃいます。もったいない

なぜこれを3段階で書いているかというと、今回やってみて、この段階とテストプレイをどうしていくかが関わってるなーと思ったから。
ゲームとして回ってない段階は、テストプレイをあまりしなくていいです。つまりね、自分が作りたい方向性がクリアになってないときに、なんとなく作ったものをテストプレイしてもらって人の意見を受け入れた結果、自分が作りたい方向からズレていっちゃう。
やってもらってもいいんだけど、この段階では人の意見は聞かなくていいです。やってみてゲームが回るかどうか確認して直す、という段階です。

で、次の段階「ゲームとして回る」ようになってから。ばんばん意見言ってもらっていいんだけど、それをぜんぶ受け入れなくてもいいです。

なんかね、「そっか、確かに言われたとおりだなー」と思って直した結果、「あれ、なんか違う……」ってなる経験が多くて。

人の意見をかんたんに受け入れることによって、自分がやりたかった方向からはずれて、ゲームが凡庸なものに堕落していく。そんなケースがけっこうあるのではないか。

テストプレイする人は、制作者がどんなものを作りたいか、どんなものが好きか、勘案せずに意見を言うから助かるのですが、同時に要注意なんですな。

とくに知識のある人は「こうすればゲームがうまく回るよ」って言いたくなるんだけど、それけっこう罠なの。ぱっと言えるような意見って、他のゲームがそういう仕組みになってるからそのメカニクスに乗っかるとうまく回るよっていう意見が多いんだよね。

だから前々回に作った完成予想図に合致しているかどうか、ちゃんと検証してから聞き入れたほうがいいです。

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あと意見を聞くことよりも大切なことがあります。遊んでる様子を見て自分で考える。遊んでいる人のアクションを観察して、「ここで戸惑ってる」「ここで盛り上がった」「ここで飽きてるな」「ここでルールを勘違いした」というのをチェックして、そこを改善するといい。

で、次の、面白くする段階。ここまで来ると、ゲームとして固まってきてね、そんなにぶれないから、どんどん人の意見を取り入れるのがいいです。

「この色だと見づらい」とか、「カードの上にも情報が入ってたほうがいいよ」とか「左利きだとやりにくい」みたいな指摘が出てくるステップです。もう「こうしたら面白くなる」っていう意見はあんまり出てこない、もう面白いから!っていう段階ね。改善して遊びやすくしていきます。

ルールをブラッシュアップする

■ブラッシュアップのためのチェックリスト

ゲームをブラッシュアップしていくためのチェックリストを配ります。

ブラッシュアップチェック2

こういうところを気にするといいよっていうポイントを書いてあります。自分が作っているゲームには要らない要素も入っている。ぜんぶ網羅しようとするととっちらかっちゃうけど、このなかから3つぐらいが特化して面白くできていると、面白いゲームになります。

■ブラッシュアップの事例1

具体例を挙げて説明しよう。『ツギハギ探偵団』。制作者の加藤くん、これどんなゲームか説明して。

ーー場に4枚「誰が」「誰を」「どんな方法で」「どういう動機で」殺したかというカードが並んでいます。プレイヤーは自分の手札から人物、凶器、動機のカードを上に重ねて、事件を書き換え、物語を作っていきます。

どこが面白いとこっすか。

ーー各自のアイデアがだんだん混ざってカオスな状況になったりして、みんなの発想を楽しめるところです。

童話とかもっと広いジャンルでの物語作りゲームなら、ライバルゲームがたくさんあるけど、これはミステリーに特化している。遊んでもらうと分かるんだけど、ミステリーに合致したゲームの仕組みになっている。ミステリーにはどんでん返しが多いから、物語がどんどん変わっていくというゲームの仕組み自体が、モチーフと一致している。

強引などんでん返しに笑ったり呆れたり驚いたりっていう醍醐味が、ゲームのなかで再現されてるの。モチーフ一致感めちゃめちゃある。モチーフに対する親しみが増幅できるとゲームっていうのはおもしろくなるんだなあーと改めて思った。

このチェックリストでいうと
《モチーフとルールが一致してるか》
の項目に当たります。

カードのワードも、古典ミステリを連想させるようなものが選択されている。ミステリー好きだと、あるあるってニヤニヤしちゃうようなね、モルグ街が、とかね。モチーフに対する親しみで気軽に参加することができるのは、いいね。

いま作ってるゲームで自分が面白くしたい部分はどこなんだ? っていうのを絞るために、チェックリストで項目出ししています。
とくに「以下の面白さの芽は大きくできないか?」のところから1、2個選んで考えてみてね。

■ブラッシュアップの事例2

もういっこ実例。ぼくの作った「はっけよいゲーム」で説明します。
ぼくは相撲のことは細かく知らないので、相撲のモチーフのことはなるべく考えないようにした。たちあいで気を合わせる感覚と、あと「のこったのこった」言ってるときの白熱したあの感覚だけは死守しようと思って。や、深い駆け引きがわかんないじゃん。素人が見ると。でもなんかぶつかり合ってる、みたいな。
あとは、最終的に「のこったのこった」って言いながらのこったカードをわーってたくさん出すことの快楽をやりたかった。それだけだとバカみたいなゲームになっちゃうで、「たちあい」のところは、ゲームのメカニクスを機能させて駆け引きを楽しむ、いろんなテクニックを入れています。

カードには、「はっ」「け」「よ」「い」という掛け声カードと、「のこった」「のこったのこった」「のこったのこったのこった」などの、のこったカードがあります。
山札があって、場に6枚出ています。

《項目:最初の人が有利になりすぎていないか?》
手札は、親が2枚、子が3枚ということにしています。ゲームによっては順番によって有利不利が出てくるのね。先手のほうが有利になったり不利になったり。「はっけよいゲーム」では、先手が有利なので単純に枚数を減らして調整しています。
これも確率計算したわけじゃなくて、やってみたら先手が有利だなあというかんじになったので。繰り返しやって調整してみた。

自分の番が回ってきたら、できることは2つです。「場のカードを1枚取る。ただしのこったカードは取れない」「手札から掛け声カードのどれかを出して、場のカードを1枚取る。のこったカードも取ることができる」。
で、のこったカードをたくさん集めると勝ち。実際は、後半に「のこった」「のこったのこった」って言いながら出して、そこにもちょっとした戦術があるんだけどね。

《項目:集める》
チェックリストで言うと「集める」ね。
不思議なんだけど、人は集めるだけでうれしいの(場内笑)。
モノポリーでお金が増えても、べつにただの紙切れなんだけど、でもなんかうれしい。しかもそれが勝ちにつながっている。なにかを集めて勝ちを目指してる状況っていうのはゲームの喜びのひとつであるわけです。

これだけだと、ゲームとしてシンプルすぎてほぼ運になっちゃうんだけど、掛け声カードは、たとえば「はっ」の1枚目を出したときは、場から1枚取れる、2枚目を出したときは2枚取れる。縦2枚のなかから3択で取れます。
「はっ」3枚目を出したときは、3枚取れる。横3枚の2択です。

《項目:イッキ:たくさん手に入る・捨てられる》

これはチェックリストでいうと、「イッキ」です。
ふだんは1枚ずつ地道に集めるしかないんだけど、状況によってはイッキに3枚取れる。そうするとちょっとうれしいわけです。Aさんが「はっ」の1枚目を出したあとに、Bさんが「はっ」を出すと、一気に2枚取れる。そのあとにCさんが「はっ」を出すと3枚。

《項目:価値の変化》
これは「イッキ」だけじゃなくて、「価値の変化」の項目にも該当します。
出すタイミングによって「はっ」の価値が変わってきているわけです。Aさんからしたら、「はっ」を出すのを1回待っておけば、おれが3枚取れたのにー悔しいー! となる。次はそうしようって思うとまたプレイしようって気持ちになる。
同じ「はっ」カードでも、プレイ状況によって価値が変わっていく。

価値が変わるだけじゃなくて、それが明確化されると、悔しいとかうれしいとか、感情が動く。そうなると面白いし、もう一回やろうって気になるわけです。

《項目:インフレ》
《項目:リミット》

さらにこのゲームでは、掛け声カードは4枚目は出せません。3枚目を出そうと待っている間に、他の人に出されてしまう可能性がある。
これは「リミット」の項目に当たります。
3枚目までは価値がインフレしていく。で、リミットを越えると暴落する。ここでは価値の逆転が起こっている。3枚取れるはずの価値ある「はっ」カードだったのが、3枚目を出されることで無用の長物になってしまう。

ギリギリで出したいが、価値がゼロになる可能性もある。プレイヤーとしてはここでちょっとドキドキするわけですな。

なのでこのチェックリストでいうと、「はっけよいゲーム」の前半は、《集める》《イッキ》《リミット》《価値の変化》《インフレ》を軸にして作っています。

《項目:推理ができる》
《項目:作戦を立てられる》

情報がどこまで開かれているかも重要です。
ゲームの情報は大きく3つあります。「自分だけの情報」「全体に公開されている情報」「推理できる情報」。この推理も、確率的に推理できる情報と、確定する情報がある。
掛け声カードは「はっ」5枚、「け」4枚、「よ」3枚、「い」2枚あります。最初はそれぞれの手札は、持っている本人にしかわからない情報です。ここでAさんが「はっ」を持っていたとします。
順番が回ってきて、Bさんが場にある「はっ」を取ったら、Bさんが「はっ」を持っているのは公開情報。さらにCさんも「はっ」を取ったとします。そしたら、Aさんは「はっ」を出さずにもう1回待って「け」を取ろう、と作戦を立てられる。BさんかCさんが「はっ」を出してくれるだろうし、3人プレイだから4枚目になる恐れはない。だから自分から出す必要はない、という推理が成り立ちます。
この場合、BさんCさんはAさんも「はっ」を持っているのは知らないわけです。情報格差が生じるので、確率で計算する推理のしかたが変わってきます。最適解のプレイをする人たちが揃っていたとしても、プレイのしかたが変わってくる。プレイヤーによって演算の仕方が違ってくるので、さまざまなベクトルでの駆け引きが場に生じて、インタラクションのダイナミズムが生まれるわけです。

《項目:モノの数を減らせないか?》
「プレイコストを下げる」って単純に書いてるけど、これが「はっ」18枚とかだと人はめんどくさくてカウントしてらんないんですよ。5、6枚はギリ覚えようかって気になるんだけど、でも10枚とかになると難しくなってくる。覚えるコストが高いので、そこは気にしないタイプのゲームになってくる。枚数でゲームの意味が変わってきます
「はっけよいゲーム」をバージョンアップした「はっけよいとネコ」では、「はっ」6枚「け」5枚、「よ」4枚、「い」3枚に変更したんだけど、遊び心地がだいぶ違う。

なので、プレイコストを下げるために、枚数や要素を少なくするのが大切です。

【追記】という試行錯誤の果に完成したのが、アークライトからリリースしている「はっきよいゲーム」です。遊んでみてねー。


さっき、人の意見をあんまり聞きすぎるのはよくないって言ったのはそれもあります。人に言われてルールを複雑にしたり、要素を増やしていけばいくほど、中心部のメカニクスがぼけて、面白さが見えにくくなってきます。
『ツギハギ探偵団』はやることはすごいシンプルだもんね。だけどやっていく内容は豊かになるようにできている。

どのぐらい削ぎ落とせるかが、プレイコストを下げることのいちばん大きな意味です。

ーープレイコストを下げるために、枚数や要素を少なくするのが大切なのに、「はっけよいとネコ」で枚数を増やしたのはなぜですか?

あー、いい質問。それはね、言語化するのは難しいんだけど、「はっけよいゲーム」は記憶して残りの勝率を推理することもできるが、運の要素も強いゲームなのね。がっちりカードをカウンティングして勝率をあげるぞってゲームではなくて、楽しく遊ぼう!っていうゲームなのだな。
なにしろ「のこったのこった!」ってみんなで言いながら手札をバンバン出していくゲームだから。そっちのバランスに合わせてます。覚えることはできるけど、そんなに覚えずに気楽にやるゲームっていう方向に。
っつっても6枚なので、カウンティングしようと思えばできるぐらいの気軽さ。

もうだから、8、9の段階で、試行錯誤して、いろんな意見を取り入れて直しているかんじですなー。

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