【小説】鬼人幻燈抄(一)-170年もの時を渡る鬼人の始まりの物語-
出会いのきっかけこそ憶えていませんが、
・タイトルが簡潔でかっこいい
・表紙の雰囲気やタイトルロゴがお洒落で、ずっと気になっていた
というのは憶えています。
いざ手に取って読み始めてみたら、とにかく文体が好みの部類で。
だから読みやすくて、描写やセリフがすんなり入ってきて、読み飛ばす気も起きずにじっくり読み込んでしまいました。
構成が、えぐいです。
えぐい、なんて少し言いすぎかもしれませんが。
物語の終盤。
クライマックス。
それまで思いもしなかった展開が起きてから――
すごく、切ないんです。
序盤から中盤にかけて見せられる、主要な登場人物達の会話や振る舞い、関係性、そして舞台といった様々な要素が、クライマックスで胸が締めつけられるほどの切なさをかき立てるんです。
読み終えて、爽快感なんて、ありませんでした。
主人公が凄烈な戦いの果てに生き延びたものの。
切なくて。
もの悲しくて。
寂しい。
そんな、どこか冷たい感情が残りました。
――なのに。
だというのに、続きが気になるんです。
読みたくなったんです、続きを。
これは、百年以上に渡る鬼退治の物語。
その始まり。
時は江戸。
山間にある踏鞴場・葛野にやってきた、主人公の甚太と、妹の鈴音。
そして、葛野が生まれの白雪。
歳の近い三人は幼い頃から共に葛野で育ち、やがて、とある事件をきっかけにバラバラの立場に。
白雪は、巫女に。
葛野の民が信仰する火の神に祈りを捧げる『いつきひめ』として、白夜と改名。
『いつきひめ』は常に社に身を置かなければならず、さらに社殿は限られた人物以外の立ち入りを禁じており、事実上、世間から隔絶された存在に。
甚太は、『いつきひめ』の護衛である巫女守に。
産鉄や鍛冶を担う鉄師の集落たる葛野では、職人としての才がなく。
代わりに、幼い時分から「いざという時に鈴音と白雪を守れる男になりたい」と願い、稽古をつけてきた剣術に優れたことで、葛野唯一の鬼切役に。
葛野の周辺で鬼が出れば、討伐に出て何日も家に帰らないことも。
鈴音は、特別な立場になることはなかったものの。
時折、『いつきひめ』が身を置く社殿に抜け道を使って潜り込んで、白夜と共に甚太の帰りを待っていたり。
立場が変わったことで、共に葛野で暮らしているのに、どこか遠い関係になってしまった三人。
葛野の民を守るために『いつきひめ』として白夜となった白雪。
白夜を守りたいと巫女守となり、妹の幸せも願う甚太。
なによりも兄の幸福を願う鈴音。
それでも、互いに幼い頃のように振る舞い合う距離感も残っていて。
そんな、各々が抱く信念や、互いを想い合う関係性が、物語が進むにつれて積み重なって。
やがて、その積み重ねが強く響いて弾けるクライマックス。
描写は精彩で、凄烈で、残酷で。
なのに、辛くも苦くもない切なさがかき立てられて、込み上げてきます。
正直、晴れやかな読後感はありませんでした。
でも、続きを読みたくなるような、不思議な余韻が残っていました。
やがて現代に行き着く、170年という長きに渡る鬼退治の物語。
現在、10巻以上あるシリーズをいくつか並行して読んでいるため、この次巻を読めるのはいつやらか……と、もどかしく感じています。
では。
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