【小説】竜殺しのブリュンヒルド
手に取ったきっかけは、ピンタレストで偶然出会った表紙のイラストでした。
白い髪に赤い瞳、赤い軍服に赤い剣。
そんな見た目の少女と、その背後に映る、白銀の巨大な竜の横顔。
一人と一頭の下には、なにもない余白が。
そう、下半分が真っ白な表紙!
「こんな表紙もアリなのか……!」
と、思わず見入ってしまいました。
とはいえ。
表紙には少女と竜が映っているというのに、タイトルには『竜殺し』の三文字が。
あらすじには、ブリュンヒルドが竜に育てられたように書かれてあるのに、『竜殺しのブリュンヒルド』。
いったいなにがあって、竜に育てられた少女が『竜殺し』となるのか?
それが明かされるのは、物語のちょうど折り返し――ミッドポイントと呼ばれる部分です。
始まりの舞台は、エデンと呼ばれる、白銀の竜に護られた島。
動物達の楽園。
島にある未知の資源を求めてやってきた人間達の中に紛れていた、年端も行かないブリュンヒルド。
偶然浴びた、竜の血。
人間が触れれば極めて高い確率で死に至るはずが、生き延びて、逆に常人離れした年齢不相応な成長を遂げます。
島で竜や動物達と過ごし、十一か十二歳に至った頃。
再び島に人間達が押し寄せてきて、竜が殺されてしまいます。
竜の命を奪ったのは、ブリュンヒルドの実の父。
竜殺しの英雄、シギベルト。
竜の死後、島は灰と化すため、ブリュンヒルドは生まれ故郷である帝国に連れ戻されます。
帝国で暮らす中、人間らしさや少女らしさを垣間見せるブリュンヒルド。
世話係となったザックスに心を開き。
狼に育てられた少女の物語を読んで涙を流し。
軍籍について将校として勤勉に振る舞い。
弟・シグルズの軍隊格闘術の訓練に連日付き合い……。
やがて、街に数多の竜が攻め入ってきた際には、身を挺して戦い、たくさんの人々の命を救ったことで、『竜殺しのブリュンヒルド』と謳われます。
なぜタイトルで『竜殺し』となっているのか、ここでいよいよ腑に落ちました。
しかし物語は、ブリュンヒルドの英雄譚だけでは終わりません。
ブリュンヒルドが英雄として讃えられた瞬間が、この物語の折り返し地点です。
私がこの作品でもっとも好きな要素は、ストーリーの構成です。
ミッドポイントを境に、物語の見え方がガラリと変わります。
後半を読み進めた先で、「裏切られた」と、「してやられた」と思って苦笑してしまいました。
ミッドポイントより少し手前。
ブリュンヒルドにとって重要なイベントがあっさり済まされていることに違和感を覚えて。
引っかかりを抱えたまま読み進めてみれば……まさに上述した、「裏切られた」と思った展開となって回収されました。
試し読みの時点で、私の好みの文体、作風だと感じましたが、ここまで強烈に感情を揺さぶられることになるとは思いもしませんでした。
やがてこの物語は、ブリュンヒルドに突きつけられた選択肢に行き着きます。
死後、神の国で白銀の竜と再会するために、憎しみを捨てるか。
白銀の竜を殺した実父・シギベルトに復讐するか。
どちらも『愛』によって迫られた選択肢ですが、意味合いはまるで異なります。
はたして、ブリュンヒルドはどちらの『愛』を選ぶのか。
選んだ『愛』の先に待つ結末とは――
クライマックスやフィナーレは、ぜひ手に取って目の当たりにしていただければ、と。
では。
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