想像よりさらに一段高い空中を飛べる人
狡猾に先を行く。常に何歩か逃げている。絶妙な距離感で置いてきぼりを食らわし、かといって追う僕を悠々と拒まない。酷で、愉快でうすら寂しくて芯に来る。
ほんと巧い。
はい、川上弘美『溺レる』(文春文庫)を読んでいるのです。
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『センセイの鞄』が中高年の男性に売れたそうな。「わしも若い女にもてたい」的なきっかけであの本を読む人がいたのか? 嘘でしょう?
あの話、実際「センセイ」には人格ないに等しいもんね。徹頭徹尾「ツキコさん」の物語。センセイは抽象で、比喩で、なんか鏡のようなもの。そっちの側から読む物語じゃないのに。けっこう著名な書評家までそんな風な軽い評し方をしててびっくりした。
ツキコがセンセイに惹かれて、一気に「恋」にまで駆け上がるあたりの描写なんか、確信犯的な狂気とでもいうか、計算尽くの振り回しというか、翻弄されながら「むむむ、川上弘美、恐るべし」と唸りまくり。
僕らの想像よりさらに一段高い空中を飛べる人を天才というのだなぁ。
小川洋子は努力家で秀才。でも川上弘美は天才。
(シミルボン 2017.3)
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