人生という名の物語
元々、他人のエッセイだとか日記というものに興味がなかった。
だが、大学で福祉を学ぶようになってから、少しずつ興味が湧いてきた。
大学一回生の時の授業でライフヒストリーという課題が出た。
身近な人、父母や、祖父母にインタビューして、その生い立ちをレポートにして提出するという課題。
(そういえば、学年を何回生と呼ぶのは関西の大学だけらしいね。)
写真や年表などを使い、大体5000字以上で書くようなレポートだった。
誰を対象にするか悩んだが、祖母が幼少期の頃に戦争を経験しているから、祖母にインタビューをしてレポートを書くことにした。
なかなか文字数が稼げず、どうしたものかと考えた結果、少しフィクションを加えてやろうということで、話を盛りに盛って若干捏造し、レポートを書き上げた。
自分のレポートに関しては、ライフヒストリーではなく、ライフストーリーになってしまったが、結構いい評価を得た。
2年後、3回生になると社会福祉士を取るための実習が始まった。
福祉には、高齢者、障がい者、児童、地域、医療、低所得者など、色んな分野があり、各々希望する分野の施設に実習に行く。
当時の自分は、あまり人気のない低所得者福祉に興味があった。
だから実習先は、あまり聞き馴染みのない人が多いと思うが、救護施設だった。
福祉業界では基本的にケース記録なるものが存在し、そこにはその人の生い立ちから、日常に起きたことなど、すべてが乗っている記録がある。
まあ病院のカルテのようなものである。
計24日間で、実習させて頂いている身分なので、とてもありがたいのだが、夏休みの間、無賃でほぼ職員と同じ業務をこなすことが何よりもしんどかった。
その中での唯一の楽しみが、入所者のケース記録を読むことだった。
あまり良くないとは思うが、生い立ちに関しては、自分が生きてきた世界とは程遠い環境や世界で、ある意味小説を読んでいるような感覚だった。
そんなこんなでなんとか実習を乗り切り、あれから4年ほど経つが、今でもあの時読んだケース記録は覚えている。
人生はその人が生きてきた物語で当たり前だけど同じものはない。そしてそれは人の数だけ存在する。
仮に同じことを経験したとしても、その時の感情や考えは人それぞれ。
それが興味深いと思うし、別の人ならどう思うのか、感じるのか知りたいと思う。
個人的には、偉人の伝記のような何かを成し遂げた人のではなくて、ただ平凡な人生を送った人のライフヒストリーの方が読み応えがある気がするし、そっちの方が楽しめる気がする。
だからこの世を生きる人には、自分のライフヒストリーを書いて、この世を去って欲しいと思うけど、やはり楽しく読むには、多少の文章力は必要で、なかなかに難しいことである。
だから、その代わりにこの世にはエッセイや日記の本が、本に出来なくとも、誰かに共有できるようにnoteやブログといったものがあるのではないか。
そんなことをふと思った。