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必要な人しか行き着けない書物の墓場の話〜京極夏彦『書楼弔堂 霜夜』〜

かおりさんへ

今年はとっても長い年末年始のお休みだったわね。久々にゆっくりと本を読む時間を取ることができて、幸せでした。今日は、お休み中に読んだ京極夏彦さんの『書楼弔堂 霜夜』について書こうかなと思います。

このシリーズはかおりさんに教えてもらったんだよね。かおりさんも太郎くんも京極夏彦さんが大好きで、初めて京極夏彦さんの本を読んだ。私もものすごく気に入って、3巻目、そしてこの4巻目と新刊が出るたびに図書館で借りている。

弔堂は書物を弔う霊廟で、主は墓守のようなもの。主の仕事は無数にある墓石の中からお客様と縁で結ばれている霊威を見つけ出し、ご縁があったらしかるべき値でお持ち帰り戴き、弔い直してもらうこと。

というと、言い方はなんだか難しいけど、主は古今東西のさまざまな書籍を集め、お客様のためにぴったりの1冊を選んでくれる本のソムリエのような人なんだよね。そもそも、弔堂はものすごく大きな建物なのに、必要としている人しか行き着けない不思議な本屋さん。現代にもあったら、ぜひ探し当てて、主とお話ししたいところだわ。

さて、今作は明治時代の終わり、出版をめぐる事情が大きく変わるなかで、活字、印刷、紙とさまざまな仕事に携わる人びとの話。今回の主人公は印刷造本改良会という会社で活字の種字を作ろうとしている甲野昇という若者なんだ。本好きにはたまらない、マニアックな話もてんこ盛りで、京極夏彦さんの博識さが本当によくわかる話だった。

詳細は、読んでのお楽しみにしたいけど、今回も夏目漱石、徳富蘇峰、金田一京助、牧野富太郎と著名人が目白押し。どの章も考えさせられるんだけど、書物について書いた一節がとても心に残ったの。

「…関係のない者、興味のない者にとっては、ただの紙の束。中に何が書かれていようとも、どれだけ有り難い文言が記されていようとも、無価値だという。先ず、読まないのだろうから、それはそうだろう。しかし、そうでない者にとって、書物はかけがえのないものになるともいうのだね。読めば」
(中略)
「読まれなければ、本の中身は死んでいる。屍だね。だが、文字という呪符を読み、言葉と云う呪文を讀むことで、読んだ人のなかに、読んだ人だけの現世が幽霊をして立ち上がるんだーーと言うのだよ、あの男は。それがーー書物というものだと言う。(後略)」

P77より

私にとって、書物は幼いころからずっとかけがえのないものだった。紙に印刷された文字を読むことで無数の情景が浮かび上がり、さまざまな人と出逢い、物語の世界を味わうことができた。なんだか不思議なこの活動はいつでも私を夢中にさせ、嫌なことがあったり、落ち込んだり、悲しかったり、どんな時も私に現実とは別の世界を見せてくれたんだよね。書物があったからこそ、現実との折り合いをつけてこられたような気がする。

今年もたくさんの書物と出会い、泣いたり笑ったり、知識を得たりしていけたらいいなと思います。というわけで、今年もかおりさんのおすすめの本が楽しみ!どうぞよろしくね。

2025年1月10日
やすこより


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