何度も何度も読み返したい話〜吉本ばなな『ミトンとふびん』〜
かおりさんへ
こんにちは。
この間、ひさびさに実家に帰ったときに、ふらっと立ち寄った近所の駅ビルの本屋さんで吉本ばななさんの『ミトンとふびん』に出会ってしまいました。軽い気持ちで立ち読みし始めたところ、これは買わないとダメなやつだと思い、速攻で購入。買ったばっかりだけどもう2回は読んでる。今日は、この本について書きたいと思います。
ばななさんはあとがきでこう書いている。
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何ということもない話。
大したことは起こらない。
登場人物それぞれにそれなりに傷はある。
しかし、彼らはただ人生を眺めているだけ。
長い間、そういう小説を書きたかった。
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前に、私が『キッチン』が好きだという話を書いたけど、ばななさんのベースは若いころから変わらないんだなって思った。実はね、しばらくばななさんの話は読んでいなかったの。初期のころの話が好きで、満足してしまっていたこともあるかもしれない。
だから、久しぶりにこの本を読んで、学生時代には仲良くしていたのに、だんだんと生活や環境が変わってしまって、年賀状でつながってるだけの友だちに何十年ぶりかで会ったような気持ちになりました。
会ってみたらふたりとも体は横に大きくなっちゃってるし、老眼の話でやたら盛り上がっちゃうし、親の介護や自分の体調の話ばっかりになるんだけど。でも最終的には、この人はこんな人だった。お互いに見た目や生活は変わってしまったけど、根本的に考え方とか言い回しとか全然変わっていない。そのうえ年を重ねたことで人間的にはめっちゃバージョンアップしちゃってるじゃないか、ああ、会えてよかった。この人と仲の良かった自分のことを誇りに思うぜって感じ。
なつかしいだけでなく、年を重ねたばななさんの書いたこの本はじんわりとあたたかい。旅先で、喪失感や悲しみを心の底に持っている人たちが、何か時別な体験をするわけでもなく、ただ美味しいものを食べ、人とそっと触れ合うなかで現状を受け止めながら少しずつ前に向かっていく。『キッチン』を読んだときも私は癒された気持ちになったけれど、それとはやっぱり少し違っていて。とくに表題作の『ミトンとふびん』は最後まで読んだら涙がじわっとにじんでくるそんなお話。たぶん、これからも何度も何度も読み返すと思う。
最後に、文庫本のあとがきがね……。不穏な感じでした。一体ばななさんに何があったんだろう。生きていればいろいろなことがある。会社と個人、社会と個人、出版社と編集者と作家。さまざまな関係性のなかで、想像できないようなことが起きることもあるだろう。それでも、ばななさんにはずーっと書き続けてほしい。ただただ年を重ねたばななさんの書くものを読みたい。そう伝えたいなと思いました。この本もかおりさんにお貸ししたいと思います。では、また。
2024年5月3日
やすこより
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