深まる秋から、冬の入口へ。立冬の楽しみ方
立冬
冬のはじまりを告げる立冬は、新暦でいうと11月上旬(今年は11月7日)に訪れます。まだ、ようやく秋が深まってきたな……と実感しだす頃ではないかと思うのですが、もう冬といわれても早すぎると感じるか、そもそも立冬なんて気づかず通り過ぎていた、というくらいではないでしょうか。
ではいったい立冬には、どんな意味があるのでしょう。暦の上で、立冬はどんな位置づけなのでしょう。
「立」ってどんな意味?
立春、立夏、立秋、立冬。春夏秋冬それぞれのはじまりにあたる、この四つの節目をまとめて「四立《しりゅう》」といいます。一年を二十四のこまやかな季節に分けた暦、二十四節気《にじゅうしせっき》では、四立が春夏秋冬の先頭になります。
そんな四立の「立」とは、はじまりを意味します。
じつは、わたしたちの暮らしには、もうひとつ、この「立」の字がそっと入り込んでいる言葉があります。
「一日」のことを「ついたち」とも読みますが、「ついたち」というのは、もともと「月立ち」といいました。「立」は、はじまりを意味するので、月立ち=月のはじまりで、ひと月の最初の「一日」を表わします。
月のはじまりの「ついたち」(月立ち)と、冬のはじまりの「立冬」。どちらも「立」の意味はいっしょなんです。
冬のはじまりは、ゼロスタート
昔むかしの旧暦では、月の満ち欠けにあわせて、毎月の日付が決まっていました。新月が一日、三日月が三日、およそ満月の頃が十五日というふうに。
でも新月には、月が出ません。旧暦では、月が見えない新月の日が、一か月のはじまりなのです。
冬も、それと同じです。立冬という節目には、まだ冬が見えてきません。新月のように、冬の影も形もなくて、でもこれからだんだん冬が現われてくるスタート地点にあるのが立冬になります。
旧暦では、ひと月も春夏秋冬もゼロからはじまる、とも言えるかもしれません。
冬のはじめの七十二候《しちじゅうにこう》
二十四節気の仲間の暦、七十二候も少し見ておきましょう。一年を二十四の季節に分けるだけでも、とてもこまやかな季節だと思うのですが、七十二候では、さらに一年を七十二もの季節に分けてしまいます。
丸いデコレーションケーキを想像してみると、八等分くらいまでは見慣れた切り方ですが、二十四等分ではとても細いケーキになりますし、七十二等分なんて言ったら、どうやって切ったらいいのかわかりません。
それほど細かい季節なので、七十二候の季節は、五日間ほどで移り変わってしまいます。
さて、それでは立冬の時期(11月上旬から下旬にかけて)に訪れる、七十二候の季節をご紹介します。
山茶《つばき》始めて開く
七十二候で、立冬の最初にやってくるのは、山茶花《さざんか》の花が咲きはじめる頃という季節です。およそ11月7日から11日頃まで。
「山茶」と書いて「つばき」と読みますが、ツバキ科のサザンカのことです。サザンカが咲いた道を歌う童謡「たきび」が思い出されますが、だんだん落葉焚きの季節になってきますね。
地始めて凍る
次は、地が凍りはじめる頃。霜が降り、氷が張り、季節が冬に変わってきます。およそ11月12日から16日頃まで。
古代中国の暦には、この「地始めて凍る」の前に「水始めて冰《こお》る」という季節がありました。水面が凍り、地が凍り、というように、少しずつ冬の足音が聞こえてくる⋯⋯。昔の人は、そんなイメージで冬のはじまりを描いていたようです。
金盞《きんせん》香《こうば》し
そして三番目に、水仙の花が咲き、よい香りが漂う頃という季節が訪れます。諸説ありますが、「金盞」というのは金色の杯を意味し、黄色い冠をいただく水仙と見られます。およそ11月17日から21日頃まで。
冬の花といえば、水仙は印象的な花ですが、寒さのつのる日々に心明るむ彩りを添えてくれます。
季節の楽しみ
11(いい)7(なべ)の語呂合わせで、11月7日は鍋の日だそうです。
11月ともなれば、北風が吹いてだんだん寒さが増してきます。じゃあ、今夜は鍋にしようか、という気分の日も多くなってくるのではないでしょうか。
くつくつ、ことこと、冬野菜やお肉や魚介の味がしみわたった鍋を囲みながら、冬のはじまりを感じるのもおつなものです。
とはいえ、自分の子どもの頃を思い返すと、「今夜は鍋だよ」と言われても、そこまでうれしく思えなくて、むしろクリームシチューやグラタンなどのほうが、冬の料理として好きだった気がします……。
時代はめぐって、大人になると、冬の鍋が恋しくてたまりませんが、子どもといっしょに食べるときは、トマト鍋にしたり、コンソメ仕立てにしたり、あの手この手で、子どもも喜ぶような味付けの工夫をこらすようになりました。
冬のはじまりは、鍋開きにぴったりの時期です。どうぞおいしく、楽しく、あたたかく、鍋を囲んでお過ごしください。
【プロフィール】
白井明大
詩人。1970年生まれ。詩集に『心を縫う』(詩学社)、『生きようと生きるほうへ』(思潮社、第25回丸山豊記念現代詩賞)など。『日本の七十二侯を楽しむ』(増補新装版、絵・有賀一広、KADOKAWA)が静かな旧暦ブームを呼んでベストセラーに。季節のうたを綴った絵本『えほん七十二候はるなつあきふゆめぐるぐる』(絵・くぼあやこ、講談社)や、春夏秋冬の童謡をたどる『歌声は贈りもの』(絵・辻恵子、歌・村松稔之、福音館書店)、詩画集『いまきみがきみであることを』(画・カシワイ、書肆侃々房)、など著書多数。近著に、憲法の前文などを詩訳した『日本の憲法 最初の話』(KADOKAWA)、絵本『わたしは きめた 日本の憲法 最初の話』(絵・阿部海太、ほるぷ出版)